第二章 何者?

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「そうか?」 「はいはい。お客さんをからかうのは、そこまでにしてください」  男達のくだらない会話に、終止符を打ったのは千砂だ。 「そうだな」  霊斬は手を合わせ、そばを啜る。周りがさらに騒がしくなる。 「千砂ちゃんのいけず~!」 「どうしてこう、うちの客って、失礼なことばかり言う男しかいないのかしら」  千砂が溜息を吐く。 「いい男ならここにいるぞ!」  先ほどの酔っぱらいが声を上げた。 「そんな男、こっちから願い下げだよなぁ。千砂ちゃん?」 「そんなことより、そばを食べてください!」 「は~い」  千砂の喝を受けた男達は先ほどのまでの勢いを失くし、それぞれにそばを啜り始めた。  そばを啜りながら、霊斬は面白そうに眺めた。      それから二日後の夕方。  (いわ)くつきの、刀の修理を終えた。  休憩している霊斬の許に、一人の武士が顔を出す。  その男の羽織を見て、光里家の者だと分かった。 「いらっしゃいませ。刀の修理でしたら、つい先ほど終わったところでございます。お持ちいたしましょうか?」 「頼む」  武士は店に入っても笠は取らず、居間の床に胡座をかく。 「こちらでございます」  霊斬は言いながら、刀を(うやうや)しく差し出した。 「よい出来だな」 「ありがとうございます」  霊斬が頭を下げると、武士が重々しく口にした。 「……そなたが〝因縁引受人〟か?」 「はい」 「なら、こんなものは不要か。ここに小判十両ある。依頼をしたい」  武士が笠を外し、床にことんと小判を置いた。 「その前にひとつ、確かめたいことがございます。人を殺めぬこの私に頼んで、二度と後悔なさいませんか?」 「後悔はしない」 「では、依頼内容を、お聞かせください」 「ある男を()らしめてから、自身番に突き出してやりたい」 「ある男とは?」 「わが家にまつわるあらぬ噂を流す(やから)十兵衛(じゅうべえ)という男だ」 「その方に会ったことは?」 「顔は見たことがある。私は十兵衛を見張っていた。あの男は武士だというのに賄賂で得た金を、女遊びや賭けで使っている。ろくでもない輩だ。前に酒に酔った十兵衛がわが家のことを容赦なく馬鹿にしたため、肩を斬ってしまった。近くの鍛冶屋に言伝を残したが。このような遠回しなやり方でしか、お主に会えなかったのだ」
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