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「そうか?」
「はいはい。お客さんをからかうのは、そこまでにしてください」
男達のくだらない会話に、終止符を打ったのは千砂だ。
「そうだな」
霊斬は手を合わせ、そばを啜る。周りがさらに騒がしくなる。
「千砂ちゃんのいけず~!」
「どうしてこう、うちの客って、失礼なことばかり言う男しかいないのかしら」
千砂が溜息を吐く。
「いい男ならここにいるぞ!」
先ほどの酔っぱらいが声を上げた。
「そんな男、こっちから願い下げだよなぁ。千砂ちゃん?」
「そんなことより、そばを食べてください!」
「は~い」
千砂の喝を受けた男達は先ほどのまでの勢いを失くし、それぞれにそばを啜り始めた。
そばを啜りながら、霊斬は面白そうに眺めた。
それから二日後の夕方。
曰くつきの、刀の修理を終えた。
休憩している霊斬の許に、一人の武士が顔を出す。
その男の羽織を見て、光里家の者だと分かった。
「いらっしゃいませ。刀の修理でしたら、つい先ほど終わったところでございます。お持ちいたしましょうか?」
「頼む」
武士は店に入っても笠は取らず、居間の床に胡座をかく。
「こちらでございます」
霊斬は言いながら、刀を恭しく差し出した。
「よい出来だな」
「ありがとうございます」
霊斬が頭を下げると、武士が重々しく口にした。
「……そなたが〝因縁引受人〟か?」
「はい」
「なら、こんなものは不要か。ここに小判十両ある。依頼をしたい」
武士が笠を外し、床にことんと小判を置いた。
「その前にひとつ、確かめたいことがございます。人を殺めぬこの私に頼んで、二度と後悔なさいませんか?」
「後悔はしない」
「では、依頼内容を、お聞かせください」
「ある男を懲らしめてから、自身番に突き出してやりたい」
「ある男とは?」
「わが家にまつわるあらぬ噂を流す輩、十兵衛という男だ」
「その方に会ったことは?」
「顔は見たことがある。私は十兵衛を見張っていた。あの男は武士だというのに賄賂で得た金を、女遊びや賭けで使っている。ろくでもない輩だ。前に酒に酔った十兵衛がわが家のことを容赦なく馬鹿にしたため、肩を斬ってしまった。近くの鍛冶屋に言伝を残したが。このような遠回しなやり方でしか、お主に会えなかったのだ」
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