第二章 何者?

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「刀に血がついておりましたが……?」 「正気に戻ったのが、刀を仕舞った後だった」 「そういうことでしたか」  霊斬は一人、納得する。 「というと?」  その武士が口を挟んだ。 「いえ。では、噂はただのほらであったと。でしたら、その人物が立ち寄りそうな場所はどこですか?」  霊斬はその言葉を聞き流し、話を進めた。 「光里家近くにある自分の屋敷か、賭け場か……」 「ありがとうございます。では七日後にお会いしましょう」  霊斬は武士と別れた。      霊斬はいつもの恰好(かっこう)で、夜中江戸で一番大きな賭け場に足を伸ばす。  戸を開けて中に入ると、五つほどの集団に分かれ、それぞれ賭けに興じている。  商人、下級武士など身分関係なく。 「次はいくら賭けますかい? 十兵衛の旦那?」  という声を聞く。  霊斬は静かに歩み寄ろうとするが、別の男に声をかけられる。 「そこの兄ちゃんよ。少し遊んでいかないか?」  誘ってきた男は、十兵衛の右隣で賭けをしていた。 「ああ」  霊斬は男についていった。    男はその賭け場の仕切り人らしかった。  その集団に加わると、たまたまだが、十兵衛と背中合わせになった。  霊斬は賭けをしながら、十兵衛の方に聞き耳を立てた。 「有り金、全部かけてやらぁ!」 「おっと、十兵衛の旦那、大きく出たな!」  その話を聞いた霊斬は、思わず苦笑する。  ――勝てるかどうかも分からない、賭けだろうが。有り金を使い果たすほど、馬鹿な話はないな。 「兄ちゃんの番だぜ」  言われてかけ金を出す。銭五枚である。 「あっちの旦那とは大違いだな」  賭けを続けながら、霊斬は話を進めた。 「有り金をなくす奴は、結構多いのか?」 「ああ。大金をかけるころあいを間違えて、(ぜろ)になっちまうのさ。でも、いつの間にか金を貯めて戻ってくる。その繰り返しさ。あの十兵衛って男もそう」 「あーあ、また負けちまったよ」  そんな中、十兵衛の落胆の声が聞こえた。  話していた男と顔を見合わせ、苦笑した。 「さて、俺はこれで上がるぞ」 「なに言ってんだい! これからがいいところだってのに」 「引き際も肝心だろう」 「それもそうだな」  霊斬は十兵衛を一瞥する。  十兵衛は有り金をすべて使ってしまったことを、おいおいと泣いていた。どうやら、近くで酒でも引っかけたらしい。座っているとき、とても酒臭かった。  十兵衛を鼻で(わら)った霊斬は、賭け場を後にした。
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