第二章 何者?

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 霊斬が目を覚ましたのは、ちょうど夕餉時だった。 「それにしたって、寝すぎだろうよ……」  溜息を吐いて、身体を起こす。  着替えを済ますと、眠気覚ましに散歩に出かけた。    頬にあたる夜風が、心地いい。  ――夜はやはりこうでなくては。  のんびりと夜道を歩いた。  夜目が利く霊斬は、わざわざ提灯を持って歩いたりはしない。敵に対しての目(くら)ましも含め、闇に紛れるようにしているのだ。  翌日、霊斬は完成させた刀を並べ、店番をしていると一人の武士がやってくる。 「いらっしゃいませ」 「この刀を研いでもらいたい」 「承知いたしました」  その間武士にお茶を出し待たせる。  霊斬は受け取った刀を手に奥の部屋へと入った。  丁寧に何度か砥いでから、武士の許へ向かう。砥いで仕上げるまで、それほど時はかからなかった。 「お待たせいたしました」  武士は刀を受け取ると、鞘を抜いて状態を確かめる。 「いい腕だな」 「ありがとうございます」  武士はお代を渡してくる。  霊斬がそれを受け取ると、店を出ていった。  霊斬はその武士が引き戸を閉めるまで、頭を下げていた。      その後霊斬は、二日ぶりにそば屋へ。 「いらっしゃい! あら、旦那。こちらへどうぞ」  霊斬はいつもの席に座る。  注文を済ませ、そばを待つ。  その間、常連客の一人が声をかけてきた。 「二日も、店、開けてなかったらしいじゃねぇか。大丈夫なのか?」 「二日くらい閉めたって、商売に影響出ねぇよ」 「まあ、腕がいいって有名な幻鷲の旦那なら、それもそうか」 「呑気なことを。あなたも、旦那くらいに働いたらどうです?」  千砂の口調からこの常連客は、まともに商売をしていないらしい。 「千砂ちゃんまで、そんなこと言うなよ」 「自覚しているだけましだな」 「どうなんでしょうね」  霊斬の言葉に、千砂が苦笑した。 「おまちどうさま」  千砂は言いながら、そばを置く。  霊斬は礼を言い、そばを啜る。  その話を聞いていた別の常連客が口を挟む。箸でそばを指さしてみせる。 「羨ましい。俺なんて店二日も閉めちまったら、これにもありつけねぇよ」 「幻鷲さんは真面目に働いているから、それでも平気なんでしょう」 「そういう奴なら、もう一人知っているぞ」  霊斬は千砂に視線を向けた。 「私……ですか?」  千砂はきょとんとする。 「千砂ちゃん、その顔、可愛い!」 「もう! 余計なことを言わないでください!」 「悪かった」  霊斬は言いながら、机に銭を置くと、店を後にした。
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