序章 夜と昼の顔

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 鍛冶場町の外れに、一軒の店がある。  引き戸は閉じており、屋根には店の名が書かれた看板が置かれている。  引き戸には商い中と書かれた板がさがる。  そんな中、カン、カンと音が響く。  根付や鍔といった装飾品なども含め、数多くの商品が並ぶ。  右側の奥には階段箪笥(だんす)。真ん中には広めの板の間がある。ここで依頼人と刀の修理やら、どんな刀を作るのか、話をまとめるのだ。  左側にはもうひとつ部屋がある。  戸が閉まっているが、先ほどからの音はここから響いている。  引き戸を開けて、中に入る。壁側には(はこ)(ふいご)がついた炉があり、中では炎がめらめらと燃えている。おかげでかなり暑い。その暑さに慣れている者でなければ、即座に逃げ出し、水を(ほっ)するだろう。  その反対側に熱した刀身を冷やすための水桶。隣には(かな)(ばし)がある。  その中心に熱したばかりで赤くなっている刀身を、金槌で叩く男。空いた空間に、胡座(あぐら)をかいて座っている。金槌を振り下ろすたびに、火花が飛び散っては消える。汗も飛び散る。  歳は二十八。なんといってもほかの人と違うのは、背が異常に高いこと。六尺ほどはある。  肌が男の中では白い方で、手も大きいし、腕も指も足も長い。  ほどよく筋肉のついた、引き締まった身体をしている。しかし、着物の間から覗く肌には、古い刀傷が顔を覗かせる。  纏う雰囲気がなにもかもをぶち壊しにしている。不機嫌そうにしているのが、ありありと伝わってくる。殺気立っていると思われても仕方がない。気の弱い者であれば、泣き出して逃げ出すほどの威圧感がある。
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