第二章 何者?

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 その日の夜。霊斬は黒の長着と同色の馬乗り袴を身に纏い、その上から黒の羽織を着る。短刀を懐に仕舞い、口と鼻を布で隠す。店を出た。  十兵衛の屋敷に忍び込んだ霊斬は、思わぬ光景を目にする。  天井の板を僅かにずらして、飛び込んできたのは。  浴びるように酒を呑み、おいおいと泣く十兵衛の姿。  十兵衛の声が聞こえてくる。 「金がねぇよ~。つまんねぇよ~」  十兵衛は言いながら、酒を呑み続ける。  霊斬は無言で十兵衛の屋敷を後にした。 「頭が痛くなってきたな、ったく」  ――世の中には、どうしようもない(くず)がいるのかもしれない。  霊斬がそう思うほど、十兵衛は酷かった。  自業自得であるにもかかわらず、賭けや酒に溺れるその姿が。      翌日、刀の持ち主である光里家の武士が、霊斬の店を訪れる。 「お待ちしておりました」 「前置きはよい」 「では、こちらへ」  霊斬は武士を奥の部屋へと通した。 「あれからそれなりに経ったが、なにか分かったか?」 「おっしゃるとおり、十兵衛とはろくでもない男であったということ。まだ言い切れませんが。  なんらかの形で、十兵衛本人が噂を広めたのではないかと。申しわけございません。私が調べるには少々荷が重く、この程度しか分からず……」 「気にするな。こちらでもあれから調べてみたが、あいつは下級武士の三男坊で出来損ない。ろくに働いてもいない。あの男が真面目に働いていたという話は、今まで聞いたことがない」  さすがは武家といったところか。少々、情報網に違いがあるようだ。 「そうでございましたか」 「成功報酬として、小判十両出す。頼むぞ」 「お任せください」  霊斬は深々と頭を下げる。      早めに着替える。黒の長着と同色の馬乗り袴を身に纏う。黒の足袋を履き、黒の羽織を着る。同色の布で鼻と口を隠す。黒刀を帯びた霊斬は、十兵衛の屋敷に向かう。  十兵衛の屋敷に着く。  中くらいの屋敷だった。造りも単純なようだった。霊斬は正面の扉を開けさせ、下仕えの者の意識を奪う。  正面から堂々と乗り込む。 「曲者!」  数人の男達が姿を見せるが、一歩進むごとに一人ずつ倒していく。  不機嫌そうに顔を歪めながらも、足を止めない。返り血を浴びるが、奥の座敷を目指して廊下を進んだ。
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