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屋敷の一番奥の座敷に霊斬が辿り着く。
刀を持って、がたがたと震えている十兵衛がいた。その姿はあまりにも哀れだ。
「き、斬りに、き、きたのか?」
十兵衛は怯えている。
「違う」
霊斬は周囲に視線を走らせた。
「噂をどうやって広めた?」
「こ、答えるわけがないだろう」
「ならば」
霊斬は言葉を切り、十兵衛との距離を詰める。黒刀を十兵衛の肩に置き、刃を首にぴったりとつける。
「ひいい~!」
冷たい感触に、十兵衛は情けない声を上げる。
「黙れ。そこから動くな」
霊斬は命じ、箪笥の中などを捜し始めた。
十兵衛が座っていた後方、小さな箪笥に手を伸ばそうとした瞬間。
「や、やめろ!」
十兵衛が斬りかかってきた。
「動くな、と言わなかったか?」
霊斬は右肩をざっくりと斬られてしまった。
ぞっとするほど冷ややかな声で吐き捨てる。
十兵衛の体勢を崩しつつ、右腕を斬り、無防備になった腹を蹴り飛ばす。
十兵衛の身体はそのまま襖を二枚破り、壁に激突。
霊斬は十兵衛が気を失っていることを察知。
先ほど手を伸ばしていた箪笥の中身に目をやる。
中に入っていたのは、瓦版との約束事と題した封書。
中身を見ると瓦版に嘘の情報を流したという、事実を隠し続けること。それができている間は、稼ぎの三分の一を支払うという内容だった。
――これが証か。
霊斬はそれを懐に仕舞うと、先ほどから出入口を塞いでいる男達を睨みつけた。
「怪我をしたくなければ、そこを退け」
男達は怯んで、霊斬に道を譲った。
遠くからピーッと笛の音が聞こえてくる。
霊斬と千砂はその場を後にした。
霊斬は十兵衛の屋敷から、自分の店に直行した。
依頼完遂後に、成功報酬が支払われる手筈になっていたためだ。
霊斬が慌てて黒刀を鞘ごと抜き、隠し棚に仕舞う。
着替えを済ませると同時に客がきた。
「ごめん!」
「いらっしゃいませ」
表に出ていくと、光里家の武士だった。
支度中の看板を見て、奥へ通す。
「それで十兵衛はどうした?」
「気絶するまで、痛めつけておきました」
「そうか。礼だ」
小判十両を置き、霊斬の前にすっと差し出す。
「では、私からはこれを」
霊斬は封書を、差し出した。
「これは?」
「見ていただければ分かります。これで光里家の暗い噂は、払拭されるでしょうね」
霊斬は報酬を袖に入れた。
「承知した。では、失礼する」
「なにかありましたら、またいらっしゃいませ」
霊斬は深々と頭を下げた。
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