第二章 何者?

9/11
前へ
/113ページ
次へ
 屋敷の一番奥の座敷に霊斬が辿り着く。  刀を持って、がたがたと震えている十兵衛がいた。その姿はあまりにも哀れだ。 「き、斬りに、き、きたのか?」  十兵衛は怯えている。 「違う」  霊斬は周囲に視線を走らせた。 「噂をどうやって広めた?」 「こ、答えるわけがないだろう」 「ならば」  霊斬は言葉を切り、十兵衛との距離を詰める。黒刀を十兵衛の肩に置き、刃を首にぴったりとつける。 「ひいい~!」  冷たい感触に、十兵衛は情けない声を上げる。 「黙れ。そこから動くな」  霊斬は命じ、箪笥の中などを捜し始めた。  十兵衛が座っていた後方、小さな箪笥に手を伸ばそうとした瞬間。 「や、やめろ!」  十兵衛が斬りかかってきた。 「動くな、と言わなかったか?」  霊斬は右肩をざっくりと斬られてしまった。  ぞっとするほど冷ややかな声で吐き捨てる。  十兵衛の体勢を崩しつつ、右腕を斬り、無防備になった腹を蹴り飛ばす。  十兵衛の身体はそのまま襖を二枚破り、壁に激突。  霊斬は十兵衛が気を失っていることを察知。  先ほど手を伸ばしていた箪笥の中身に目をやる。  中に入っていたのは、瓦版との約束事と題した封書。  中身を見ると瓦版に嘘の情報を流したという、事実を隠し続けること。それができている間は、稼ぎの三分の一を支払うという内容だった。  ――これが(あかし)か。  霊斬はそれを懐に仕舞うと、先ほどから出入口を塞いでいる男達を睨みつけた。 「怪我をしたくなければ、そこを退()け」  男達は怯んで、霊斬に道を譲った。  遠くからピーッと笛の音が聞こえてくる。  霊斬と千砂はその場を後にした。      霊斬は十兵衛の屋敷から、自分の店に直行した。  依頼完遂後に、成功報酬が支払われる手筈(てはず)になっていたためだ。  霊斬が慌てて黒刀を鞘ごと抜き、隠し棚に仕舞う。  着替えを済ませると同時に客がきた。 「ごめん!」 「いらっしゃいませ」  表に出ていくと、光里家の武士だった。  支度中の看板を見て、奥へ通す。 「それで十兵衛はどうした?」 「気絶するまで、痛めつけておきました」 「そうか。礼だ」  小判十両を置き、霊斬の前にすっと差し出す。 「では、私からはこれを」  霊斬は封書を、差し出した。 「これは?」 「見ていただければ分かります。これで光里家の暗い噂は、払拭されるでしょうね」  霊斬は報酬を袖に入れた。 「承知した。では、失礼する」 「なにかありましたら、またいらっしゃいませ」  霊斬は深々と頭を下げた。
/113ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加