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その帰り道、霊斬は立ち並ぶ店の間に、人だかりを見つけ、軽い気持ちで見にいく。
小料理屋の前を通りかかると、岡っ引きと定町廻り同心が駆けつけていた。亡くなったのはこの店の看板娘らしい。
「あいつだよっ!」
どこかの店の女将らしき女が、叫んで一人の男を指さす。
その男は青い顔をして慌てて逃げ出した。
動こうとした岡っ引きを、同心が引き止める。
「追い駆けねばならんでしょう?」
岡っ引きは同心を不思議そうに見つめた。
「それは許さん」
岡っ引きに言い放ち、同心は手を叩いて皆の視線を奪う。
「しかし……」
岡っ引きが抗議しようとしたが、同心はそれを無視した。
「騒がせて申しわけない! この件については、見なかったことに! こんなことで足を止めているわけにもいくまい。ささ、早く戻りなされ!」
――人の命がひとつ、消えたというのに。その扱いはなんだ? 遠回しな口封じとは、よほどなにかを隠したいようだな。
そんな同心を不思議に思いながら、霊斬は人の波に紛れた。
店に帰って刀部屋に入った。
水につけておいた刀を取り出し、砥石で何度か研ぐ。そのたびに出来栄えを見ながら。
だいたいの仕事を終わらせ、霊斬は休憩していた。すでに、日は傾き始めている。
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