第一章 霊斬の知られざる一面

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 かなり前だが、そういう状態になって自死した男を、見たことがある。復讐のために準備をし、それを達成してもなにも報われず、泣き(わめ)きながら死んだ。  その死を受けて霊斬は、哀しい負の連鎖に取り込まれ、狂ってしまったのだと思った。  人を憎むだけなら誰でもできる。人を殺めるともなれば、誰もができることではない。ただ一人を殺めるためだけに、自らの人生を捧げる。  そんなことをしても、誰一人喜ばないのにもかかわらず。やられずにはいられなくなる。  実行する前に、その想いを吐き出す場所。そして、自らの手を穢す前に、頼れるところがひとつでもあれば。自分の心に、折り合いをつける機会を与えれば、止められるのではないか。  方法はこの世のありとあらゆる闇を、人を殺めないことを条件に肩代わりする。普通の人では耐えきれない、苦痛と罪の重さを代わりに引き受ける。哀しい連鎖に取り込まれる人を一人でも減らすために。  (こっち)の世では〝因縁引受人〟。あるいは見えないものを斬るという意味で、〝霊斬〟の名で知られている。  依頼人が金を持っているのであれば、報酬として受け取る。なければ無償で行う。  ただし依頼人に二度と後悔しない、と堅く約束させる。それと、刀の修理を(もっ)て。
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