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ゲーマーズ・ダンジョンの挑戦【4】
放課後の廊下を進むと、部活に向かう生徒たちとすれ違う。
「あ、芽歌芽歌っち帰るの?」
「今から仕事なのよ」
「あっ、ダンジョン絡み? がんばってねー」
「うぃーす」
体操着姿のクラスメイトたちと気だるく挨拶を交わしながら、次第に人気のない校舎南棟へ。たどり着いたのは3階、廊下のつきあたりにあるコンピュータ実習室だ。
「ここか」
黄色い『KEEP OUT』立ち入り禁止のテープで入り口は封鎖されていた。そして一人の生徒が門番のよろしく立っている。
「やぁ、蔵堀さん。今日もよろしくお願いします」
「あ、こんにちは」
挨拶を交わすのは壇合先輩だ。なんと生徒会の副会長らしい。丁寧で折り目正しい立ち振る舞い。なんとなく執事っぽいダンジョン水先案内人。
「中の様子は、どんな感じなんですか?」
「えぇ、ダンジョン化した原因はコンピュータ研究会の部長、二年生の神無月アルト君だと推測されます」
「神無月……」
なんだかカッコイイ苗字じゃん。厨二っぽいというか。
「二人の部員も行方不明、中に取り残されていると思う」
「なるほど」
部長がPDS、つまりパーソナルダンジョンシンドロームを発症。
部員たちは巻き込まれたのか、あるいは助けに入ったのだろうか。
宮藤ほのかと取り巻きABのように、ストレスの原因で、取り込まれてしまったのかはわからないけれど。
「扉を開けると挑戦的なメッセージが表示されます。危険なので生徒会で扉を封印し、その後は誰も入っていません」
ダンジョンはPDS発症者の精神が影響する。
ゲーム好きな部長メンタルが反映されているのだろう。
「了解、ちゃっちゃと攻略しちゃいます」
腕を回し軽くストレッチをしていると、とたとたと足音が聞こえてきた。
「め、芽歌さんっ……!」
「栞ちゃん!?」
「はぁはぁ、私にもお手伝いさせてください」
栞ちゃんの言葉に驚く。
「えっ、そんなダメだよ危ないよ」
あれから栞ちゃんはずっと考えている様子だった。自分と同じPDS発症者を助けたい、そういう考えに至ってもおかしくはないけれど。
「平気です。芽歌さんの力になれるかもしれない。私なりに勉強もしたの。ダンジョンのこと、PDSのこと」
真剣な眼差しがメガネごしにあたしを見つめている。
大人しい印象の栞ちゃんが、そこまで言うなんて。きっと本やネットでいろいろと勉強したのだろう。
「中はどうなっているかわからんよ、変態ダンジョンかもしれないよ?」
宮藤ほのかのゴールデン・パリピダンジョンは狂気の園だったし。コンピ研の部長のダンジョンが「まとも」なわけがない。
「私は、芽歌さんの友達になった、だから何か手助けしたい。足手まといにはならないつもりだから」
くっ、そんな瞳で言われたら惚れちゃうぞ。
「わかった。いこう! 覚悟はいい?」
「うんっ! ありがと芽歌さん」
メガネの鼻緒を指先で持ち上げ微笑む。長い黒髪を耳の後ろあたりでハーフアップにまとめた可憐な図書室の乙女。栞ちゃんにこんな積極性があったとは。
「先輩、二人で入っていいですか?」
「山田先生には倉堀芽歌さんが来るとはいわれていたけど……。まぁ僕から話しておくよ。お二人様、ご案内ー」
壇合先輩が妙に軽い調子でダンジョンの封印を解く。なんだご案内って、そういう店か?
「手を握って」
「うんっ」
あたしは緊張の面持ちの栞ちゃんと手をつなぎ、慎重に扉を開けた。
そしてコンピュータ実習室の入り口をくぐる。
一瞬、軽い眩暈を感じ、周囲の空間がゆらぐ。
「うっ」
「きゃ」
目を開けるとそこは既にコンピュータ教室ではなかった。
薄暗い空間が広がっている。
後ろに出口は無い。
無限に続く暗黒の空間に、青白い床だけ。
殺風景な空間に突如、空中に半透明のモニターが浮かびあがった。
『真ゲーマーの挑戦を求む。勝利か死か』
ホログラムのように文字列が映し出されていた。
「おぉ? ゲームみたいなダンジョンね」
「すごい……」
感じる。
これは、ただのダンジョンじゃないぞ。
ファンタジー系ゲームのスタート、入り口を再現しているのだろう。
『挑戦をはじめますか?』
『はい』←
『いいえ』
指先で空中をなぞると反応した。
「インタラクティブなVRゲーム空間かよ」
正直、おどろいた。
すごい……!
良く出来てやがる。
こんなダンジョン見たことない。本物のVRゲームみたいじゃん。ダンジョンは精神力と胆力、想像力が生み出すもの。コンピ研の部長だからギミックやロジックに凝っているってことか。
「これ『はい』を選ばないと進まないんですね?」
と栞ちゃん。
「らしいね」
私は意を決し指先で『はい』を押した。
<つづく>
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