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ゲーマーズ・ダンジョンの挑戦【3】
放課後、再び職員室を訪れた。
「芽歌、コンピュータ実習室のダンジョンはたのんだぞ」
デスメタルメイクで復活した山田先生は、ギターを抱えて弦をはじいた。
「はぁ」
コンピュータ室に出現したダンジョンの攻略なんて、正直いまいち気が乗らない。
栞ちゃんと宮藤ほのかはクラスメイトだから助けた。けれど今度のダンジョンを作ったのは知らないヒト。助ける義理も道理もない。
「ダンジョンマスターは2年C組の男子だ。コンピュータ研究部の部長で、今日は当校したが授業は無断欠席で行方不明……。状況証拠からみて部長がダンジョンを生んだ張本人で間違いない」
「コンピュータ研究部の部長って……先輩じゃないですか」
「嫌か」
嫌だよ、知らない男子なんて。
「ヤバそうな人ではないかと」
ハッキング好きで美少女ゲームばっかやってる変態かもしれないし。偏見だったらごめんね。
「成績優秀、人畜無害の好青年らしいが」
「ダンジョンを生むほどに心の闇を抱えた好青年ですか……」
強度のストレス、悩み、恨みつらみ。心の闇こそがダンジョンを生む。つまり優等生で好青年でも深く暗いストレスを抱え込んでいた。
おまけに『ゲーマーの挑戦を求む。勝利か死か』なんて痛々しい掲示をしている時点で、かなり歪んだ自己顕示欲の強い人だ。ダンジョンの中もヤバそう。
「困っている人間を助けるのが、強き者の責務だ。違うか?」
デスメタルメイクの悪魔じみた顔で真面目に、良いことを言う先生。
「どこかで聞いたようなセリフですけど」
強き者とはつまりあたしのことか?
「言ってみたかったんだよ」
こんな山田先生だけど、ダンジョン絡みの事件であたしを頼りにして、誉めてくれる。内申点も成績もアップすると言っているし悪い気はしない。
「あの、山田先生」
「みなまでいうな芽歌。おまえの活躍はちゃんと評価している。故に……これを授けよう」
山田先生はすっ、と一枚の折りたたまれた紙をくれた。
開くとハンコを押す「ポイントカード」だった。
表紙には『ラーメン背脂道』とある。次郎系ラーメンのポイントカードだ。
「……なんですかこれ?」
「よくみろ」
ラーメン屋の名前の下にテプラで印刷された『ダンジョン攻略者限定、ポイントカード』シールが貼ってあった。
「ダンジョン攻略者……ポイントカード?」
「そう! ダンジョンを攻略すればポイントゲット! 二十個集めれば我が校が今年から提携した某国立大学へ『推薦枠』の優先権を進呈しよう」
「えっ!? 推薦! どこの大学ですか?」
「それは……国立大学だ。国立防衛大学、特殊空間領域物理研究学部、設立されたばかりの対迷宮戦略ゼミだが、芽歌にピッタリだろ」
後半ゴニョゴニョと早口でよく聞き取れなかったけど、国立大学!? すごいじゃん。
「マジッスか」
ゴクリ。
このカードがあれば楽々、華の女子大生へジョブチェンジできるわけね。しかも裏面にはすでに四つ、赤い『よくできました』ハンコが押してある。
「栞とほのかを救出したポイント二つ、それと黄金ダンジョンから相原と備前を救出した分も特別サービスだ」
「お、おぉ……」
ダンジョン攻略ポイントカード。
貯めれば良いことがある。
なんか……嬉しい!
一気にやる気出た。
これはがんばって貯めるしかないじゃん。
「そんなに目をキラキラさせて、気に入ったようだな」
フフフ、と不敵に微笑む山田先生。
チョロインと思われたかもだけど、まぁいいや。
「はい!」
「芽歌のようにダンジョン攻略のできる生徒は他にいない。だが、油断するな。そのうち同じ『免疫獲得者』スキルを有する生徒が増えるかもしれない」
「キャラって」
「そうすればやがて『免疫獲得者』同士でダンジョン攻略ポイントを奪い合う展開もありうる。ダンジョン攻略を巡る熱い学園バトル、そんな展開はロックで熱い、面白いだろ?」
悪の幹部こと山田先生はホントに楽しそう。そっちこそ目キラキラさせてんじゃんかよ。
「そういう展開はいりません」
面白くしようとすんな。
ダンジョン攻略を何だと思ってやがる。
『免疫獲得者』同士でポイントの奪い合いとか、少年マンガあるあるだけど、冗談じゃない。
兎に角、あたしの大学推薦と明るい未来の邪魔はさせない。ポイントは全部頂くわ。
「……運命の歯車が動き出す」
「ナレーションもいいですから。じゃ、行きますね」
「気をつけてな、よろしく頼んだぞ。5時までには終われよ、バンドの練習に間に合わねーから」
「はいはい」
何はともあれ、がんばった評価が「視える化」されたのはちょっと嬉しい。あたしはカードを胸ポケットに仕舞い、軽やかな足取りでダンジョン攻略へと向かうことにした。
<つづく>
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