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VRゲームみたいじゃん!
空中にポップアップされた「スタートボタン」を指で押すと、あたしと栞ちゃんは魔法円の輝きに包まれた。
「お……?」
「きゃ……?」
周囲がキラキラ光り、目の前に半透明なウィンドゥと文字が浮かぶ。
『キャラメイク開始
プレイヤー初期パラメータ自動生成
個人生体ステータス解析……完了
初期装備デフォルト装備』
ゲームっぽい文字列がピコピコ浮かんでは消えて、やがて名前入力の五十音表示が浮かんできた。
「凝ってるわねぇ」
「これ……ダンジョンの中ですよね?」
「流石はゲーム好きの巣窟、コンピ研の部長だわね」
思わず苦笑する。開始時によくあるキャラメイクに名前付与。ここは素直に「メカ」と入力、栞ちゃんも「シオン」と入力した。
「お?」
「わ?」
あたしたちの体に光の粒子が集まり、輝いた。光の粒子は次第に形を成し、装備品に変わってゆく。
「おぉ、すげぇ!」
制服姿の上に装備した簡易鎧、プロテクターみたいな革の鎧。右手にはランス、いやドリルじみた武器を初期装備。
どうやら勝手に個人のステータスや特性を分析し、初期装備をつけてくれる仕組みなのか。もちろん自分本来の『ダンジョンドリルブレイカー』も出せそう。
面白い! ゲーマーズダンジョン、つきあってやろうじゃないの。
「芽歌さんが戦士の格好に!?」
「栞ちゃんは魔女ね、可愛い! 似合ってる」
「えへへ……ちょっとハロウィンのコスプレぽいですけど」
照れ臭そうな栞ちゃんは優雅な紫色のマントを羽織った魔女の姿。右手には杖、左手には分厚い魔導書を持っている。
ポップアップで目の前にウィンドゥが浮かぶ。
『なまえ;メカ 職業;狂戦士
レベル; 3
HP ;24
MP ; 0
状態 ;元気
装備 ;制服アーマー、ドリルランス
アイテム;回復薬1』
「誰が狂戦士よ!」
『なまえ;シオン 職業;魔女見習い
レベル; 2
HP ;18
MP ;23
状態 ;元気
装備 ;制服魔女マント、初心者魔導書
魔法 ;炎弾
アイテム;回復薬1』
「ぬぬぬ、本格RPGっぽい」
「わ、魔法が使えるんですね!」
ぶんっと栞ちゃんが杖を振ると、先端から炎の塊が出てどっかに飛んで行った。
「すごい!」
「あっ、MPが1減りました」
演算までして表示しているのか!?
ちょっと驚き、そして感動してしままった。こんなダンジョンは初めてだ。
「流石はコンピ研部長だわ」
ダンジョンは生成した人間の精神が生み出すもの。人生の経験、妄想、想像力に影響される。コンピュータ研究会のゲームオタ部長ゆえ、ここまで仔細なダンジョンを生成できたのだろうか?
PDSの発症初期では夢見心地、夢か現かわからない状態のはず。自分の意思で細部までは決められない。
この解像度の高いVRゲームじみた異空間、インタラクティブな拡張現実型となれば並みの精神力では無理。リアルタイムでダンジョンを生成、ステータスやらの演算までしている。
もしかして……コンピ研の部長、神無月アルトは既に何度かダンジョンを生成した「経験者」ということ?
「ま、最新のVRゲームに比べたら雑というか、ディテイールが甘いけどね。もう少しグラフィックのクオリティが高かったら……」
思わずゲーマーとして感想を漏らすと、ゴゴゴ……と地鳴りが聞こえて空間が揺れた。
「じ、地震ですか!?」
「ちっ、めんどくせぇ。ゲームを批判すると烈火のごとくキレるタイプか?」
ダンジョンマスターが怒ったのか、目の前の表示が切り替わる。
『転移:第一層へ』
突然、足元の魔法円が赤々とした光を放ち一瞬で周囲のグラフィック? が切り替わった。
より高解像度で綺麗なものに。
「芽歌さん、場所が変わったよ」
「転移したってことね」
地下神殿の入口を思わせる場所に、あたしたちは立っていた。
巨大な神殿の廃墟の迫力に圧倒される。黒ずんだ石造りの建物、足元の石畳、立ち並ぶ石柱が延々と奥まで続いている。ボッ……ボボボと、青白い不気味な「かがり火」が柱の燭台に灯ってゆく。
振り返ると帰り道はない。転移ポイントらしき魔法円が消え、退路を断たれた。
進むしかないわけね。
「……進んでみましょ」
「うん」
あたしが先頭、後ろを栞ちゃんが二歩下がってついてくる。
天井がすごく高くて見上げる。
本物の神殿の廃墟を歩いている感じ。まさにVRゲームみたいだけれど、実際に歩かないと進まない。足の裏に伝わる石の感覚は本物で、ホコリ臭さ、空気の流れる感じさえもある。今まで何度か経験したダンジョンとは明らかに「再現度」が違う。
「さっきはディティールが甘いとか言っちゃったけど、実際に歩くとファンタジーゲームって感じで雰囲気あるじゃん」
「そうですね、ドキドキしてきました」
二人で思わず感嘆すると、どこからともなく軽快なBGMが聞こえてきた。
「あ、音楽鳴ってます?」
「鼻歌か?」
上機嫌かよ。
ダンジョンマスターのメンタルで変化するとか、参加プレイヤーの反応を意識しすぎじゃなかろうか……。
<つづく>
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