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図書室のダンジョン(1)
「芽歌、図書室にダンジョンが出来た」
「はぁ」
「おまえなら何とかできる、だろ?」
山田花子先生はロックな女だ。指にトゲトゲのシルバーアクセサリー、赤いトサカ頭と真っ赤な革ジャンに鼻ピアス。そんな先生のお願いにあたしは、
「無理です」
と即答。
いやだよ。
ダンジョン攻略なんて無理!
どうして生徒のあたしがそんなことしなきゃならいないわけ?
ダルイしめんどくさい。
関わりたくない。
生徒の誰かが勝手に生み出した「ダンジョン」なんてほっときゃいい。生み出した本人が中で干からびるか死ねば解除されるんだから。
「嫌か?」
「はい、あたしには無理っていうか、静かに暮らしたいっていうか」
「そんな生き方はロックじゃねぇなぁ」
デスメタルバンドのヴォーカルを生き甲斐にしている山田花子先生は、職員室の机に肘を乗せ、ギロリとあたしを睨んだ。
「ひぃっ」
「……芽歌、おまえ中間考査は赤点だったよな?」
地獄から来た悪魔を思わせるメイクの先生が、眼光を鋭くする。
「ぎく」
「勉強は好きか?」
「嫌いです」
「そうかナメんなよ」
「えぇ……」
睨まないで怖いです。
「そこで提案だ。ダンジョンを攻略し中に引きこもったクラスメイトを救いだしてくれるなら、内申点をアップすることを前向きに検討しようじゃないか」
「えっ、内申点……」
確かテストの点数が悪くても大学に推薦してもらえるチートアイテム、だよね?
「悪い話じゃねぇだろう? 芽歌」
山田先生は職員室の椅子にふんぞり返ると、ニヤリとしながら悪魔の取引をもちかけた。
「うぐぐ……やります」
熟考3秒、あたしは依頼を受けた。
内申点がアップすれば、多少勉強の成績が悪くても楽してヒャッホーと華の女子大生へレベルアップできる制度「推薦」への道が開かれるはず。知らんけど。
高校一年の7月。夏の空は青い――。
青春真っ盛り、花のJK。だけど存在感薄めのスクールカースト中間層。
そんなあたしにだって夢はある。
楽をして生きたい!
素敵な夢だと思う。だから進路希望調査では素直に書いた。
【進路希望】
1年C組、 蔵堀芽歌
1、ゲーム実況動画のプロ視聴者
2、プロ自宅警備員
3、なし
『ユーチューバーや動画配信者になりたいって生徒は一定数いるが……なんだ「プロ視聴者」って、ダメ人間すぎんだろ! プロ自宅警備員?金もらうつもりか! 人生ナメんな!』
『えへへ、それほどでもないです』
『誉めてねぇ! オレが学年主任に怒られるんだよ。ウチは進学校だからな、せめて大学進学とでも書いとけ』
『えっ? 進学校……』
『初めて聞いたみたいな顔すんな』
それからというもの、あたしは事あるごとに山田先生に絡まれるようになった。
そして今日。
ついに面倒ごと「ダンジョン攻略」の依頼をされたってわけで……。
うーん?
どうすべき?
図書室のダンジョンを攻略せよ、か。
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