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「……一応いっとくけど、洗って渡せよ?」
「なっ、なにがぁ?クラッカーですかぁ?」
「頼むぞホント…」
夜景がすごいと評判のホテル。
彼女は早々にシャワーを浴びにいった。
「うーん…」
とりあえずのサプライズは失敗。
しかしそのままというのも、味気ない。
「何かのプレゼントが右ポケットに入ってるんだろうと思わせてぇの……うーん、ケーキでもとって中に仕込むか?」
クラッカーの残骸が入った袋を右のポケットから取り出して鞄にしまう。もちろん指輪は汚してなどいないとも。いくらプロポーズのためとはいえ食べ物を無駄にしたら罰が当たる。そんな訳でケーキもあんまり本気じゃない。
「まあとりあえずいったん胸ポケットに移して…」
「普通でいいぞぉ」
ビクリと身体を跳ね上げる。振り返ると、彼女が何かを心配するようにこちらを覗いていた。
「しゃっ!だっ!だってシャワーあびっ!」
「浴びずにおいてよかったよ」
少しばつが悪そうにそう言った彼女。
「とりあえず……胸ポケットの中身を出せ」
「な、なんでしょう?」
「出せ。さもなくば帰宅するぞ」
脅されて仕方なく、胸ポケットのポテ◯を差し出す。彼女が何度も頷きながら「おうおうポ◯コかぁ…」と眉を顰める。
「アタシの薬指にうま塩を擦り込むつもりだったのか?」
「あ、はぃ」
「因みにさっきから袋はみ出してたからな?」
「……失礼しました」
言われてみればポケットチーフがない。どこに落としたのか。
「……で、右の内ポケットは?」
「な、なんですかね?」
「箱いれんなよ、膨らんでんだよ」
「あ、はぃ…」
おずおずと、取り出した箱を差し出すが、彼女はそれを受け取らず、
「開けろ」
また、そんな事を仰る。
「えぇ、でも…」
「開けろ」
凄まれて、仕方なく取り出した箱の蓋を開ける。
アーッハッハッハッハッハァ!
声と共に、ビョンビョンとしたピエロがビョンビョンする。
「………………」
「………………えっと…」
ピエロの頭をバネごと取る。
「指輪と見せかけて折りたたんだ婚姻届けでしたぁー……えっと、その…」
「さっきそれ出さなくて良かったな。うっかり殺していたかもしれん」
物騒な顔で物騒な事を言う彼女。なるほど、ピエロはフザケてるみたいになっちゃうから良くないのかな。
「……尻ポケットの棒は?」
「な、なんでしょーぅかっ?」
「もういいっつーの出せはよ」
イライラする彼女に、私は尻ポケットから刃のついてないナイフを取り出し、柄についているボタンを押す。
「折りたたまれた婚姻届けが飛び出します」
「あの場で婚姻届け出すヤツいるか?」
「さ、サプラ~イズ」
「そういう驚きはいらない」
「実は反対側にも棒タイプのやつをですねぇ」
「そもそも複数枚持ち込むな」
はぁ、と重い溜息を吐き、彼女はやれやれと頭を振る。
「なぁ、サプライズやめねぇ?」
「な、なんのことでしょう?」
「まだ諦めないのか。自分で言っちゃってたじゃん…」
んっ、と、こちらに左手を差し出す彼女。
「普通がいい」
「………………」
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