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315回目の転生
転生した。…それは別に良い。
もう何回目か数えるのを諦めるくらいの回数は転生してるし。それになにか言ったって今更だ。言うつもりも無いし。
ただ…………ただ。
ここは…何処の国…。
いや、何処の世界なのか。
何度も転生してきた俺には、わからないものなんてあんまりない。もちろん驚くことも。
だけどこれは…。
驚くどころか、自分の頭が正常なのか疑うレベルの光景だ…。
目の前の女性が……何て表現すれば良いんだろう…。
水を…生み出している?
あ~、もういいや。見たままを言おう。
俺の目の前にいる女性(多分俺を生んだ母親かな?)が俺に背を向けながら、水瓶に手を翳して水を生み出し、ジョボジョボと注いでいる。
意味がわからない。
そしてもっと意味がわからないのが、女性の行動以外はとにかく普通だということだ。
古びた木造の家の中には最低限の家具。その中の一つであるベッド。そこに横たわらされている生まれたての俺。
まぁ、珍しい光景ではない。だが人間が水を生み出しているという衝撃映像を見たあとにこんな普通の光景を見ると、なんというか…頭がこんがらがる。
いっそ非日常に非日常を重ねてくれていれば吹っ切れて考えることを止めることができるんだが、半端に「普通」の状態が存在してるから現実逃避ができない…。
………とりあえず……観察でもしとくか…。そしたら何かわかるかもしれないし…?
さて、気を取り直して。女性の服装はボロボロになったワンピース一枚。顔色も俺を生んだ直後だからだろう、かなり悪い。いや、まぁ、子供を産んでただでさえ死にかけなのに、その直後に立って水瓶に手を翳すっていう行動ができる事自体、そもそもおかしいんだけど。
何?ほんとに俺が知らない間に世界の常識とか変わったりしたわけ?
…あー、駄目だ。やっぱ何も変わらなかった。…考えるのを一旦やめよう。
そんなことを考えて深呼吸をしている俺に一度も目を向けることの無い女性。その女性は、生まれた瞬間、呼吸をするために一つ声を上げただけでそれ以上泣き喚くことの無い我が子を心配もせず、ただ一心不乱に水瓶に水を注ぎ続けている。
それから少し時間が経って、ちょっとだけ落ち着いた俺は、ひとまずこの女性が何をしようとしているのか再び観察することにした。
これは、前までの世界で言うところの魔法的な何かなのか。それが本当に魔法だとすれば、他にどんなことができるのか。俺にも使えるのか。強いのか。など、疑問は尽きることはないが、とりあえず一旦全て飲み込んで、この女性の一挙一動を見逃さぬように俺は女性の手元をじっと見つめた。
しばらくすると水瓶は満杯になり、女性は先程よりも疲れた様子でほぼ倒れ込むようにベッドに座り込んだ。
そして数分間ほど目を閉じ、呼吸を整えていた。何をしているんだ、と思っていると、不意に女性は目を開けて俺に目を向けた。
やっと俺に向けられたその目は、俺でもこれまでの人生で数回しか見たことのないくらい冷たい目だった。
あぁ……これは…。
と、この女性がこれから何をしようとしているのかの察しがついたのとほぼ同時に、女性は俺の頭を片手で掴み、持ち上げ、歩き出した。
俺はこれから起こることに大体察しがついていたので割と冷静だった。何ならこの世界に来たときのほうが十倍取り乱していた。
そしてそんな俺が連れられる先は、先程女性が水で満杯にした水瓶だった。
バシャン、と。
無慈悲に俺を水の中に沈める音が、水のせいで籠もって聞こえてきた。
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