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冬の帰り道
冬休みが終わり、お店からお正月の商品は消え、バレンタインの商品が並ぶ頃。
「寒いね」
「雪降るかなぁ」
なんてことを話しながら、陽菜は小学校のクラスメイトと帰宅していた。
天気は良いし、風もない。でも、冬の空気は肌が痛くなるような冷たさだ。吐く息が白い。
「今日は寒いから、手袋持ってきたんだ」
クラスメイトはピンク色の手袋を取り出した。何の飾りもない毛糸の手袋。でも、桜の花みたいな可愛い色だ。
「陽菜ちゃんは? 手袋持ってこなかったの?」
「うん、これくらいなら大丈夫」
「すごーい、寒さに強いんだね」
陽菜は嘘をついた。
本当はすごく寒いし、手袋だってランドセルの奥に入っている。
でも、クラスメイトにこの手袋を見せたくなかった。
「じゃあ、また明日ね!」
「バイバーイ」
家に帰ると、陽菜はランドセルを下ろして教科書やノートを取り出した。それらの下敷きになっていた手袋も。
くすんだ茶色の、地味な手袋。もちろん、飾りなんて何もついていない。そのうえ、陽菜の手には少しだけ大きくて、つけると不格好になる。
手袋のない陽菜に、「それ使ってなさい」とお母さんが渡してくれたものだ。
陽菜が去年まで使っていた手袋は、可愛くてお気に入りだった。淡い黄色で、小さいリボンがついていて、陽菜の手にもピッタリなサイズの手袋。
でも、お母さんに捨てられてしまった。
指の先の部分が破けてしまったのだ。穴があいた手袋は使えないから、仕方がない。
陽菜の家はお父さんがいなくて、お母さんはいつも仕事で夜遅くに帰ってくる。
仕事で疲れているお母さんに「この手袋は嫌だから、新しいのを買って」なんてわがままを言えるわけがなかった。
早く冬が終わればいいのに。
そんなことばかり陽菜は考えていた。
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