本編

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「ひかり先輩、おはようございます!」    後ろから不意に声をかけられるが、聞きなれたもので誰だか直ぐにわかった。もっとも悠ちゃんなどと呼ぶ人物は世界で一人しかないが。 「おっ、元気になったか。昨日は心配したんだゾ!」  どのくらい心配していたかというと、部活の朝練を早めに抜け出して、ずっとここで待ち伏せしてしまう程に心配し続けていた。元気になった姿をみて純粋に喜ぶ。 「あ、なんか迷惑掛けたみたいですいません」  ――昨日一緒だったのは覚えてるけど、何を話してたか全然なんだよな。 「へへへ、いいのいいの! ね、悠ちゃん、今日の放課後時間あるかな?」  あるかなと聞かれても、帰宅部な悠に用事などある日の方が稀だった。仮に用事があってもここは断るようなところではない、その位の感覚は悠にもあった。単純な話、暇だった現実がそこにあったりもするけれど。 「はい、ありますけど?」 「じゃあさ、ウチにおいでよ。お店で新作のケーキを出すことにしたんだ、感想聞かせて欲しいな!」  喫茶藤崎。二十人も入れば窮屈な想いをしてしまう位の、自宅の一階がお店な造り。常連が軽食を求めてやって来るので繁盛していると言えるかもしれない。 「そうなんですか? そう言われたら、行かないとですね! お邪魔します」 「うん、それじゃ帰りにね!」  そう言うとひかりは三年の教室へと小走りで行ってしまった。その後姿は何だか兎がぴょんぴょんと跳ねているように見えてしまう。 「なんだ、ひかり先輩どうしたんだろ?」  首を傾げながら三組の教室へ入る。自分の席につくいて鞄から教科書を机に移していると、佐々木委員長がやって来た。 「木原、今日はマシになったのか?」 「なんだ、どうかしたのか?」  首を傾げて逆に問いかける。目を細めてじっと見詰めてくると、数秒で小さく頷く。 74451131-d898-4032-8ed7-e40e3c58f6b8 「ふむ、平常のようだな。ならば良い」  そうとだけ言うと自分の席に戻ってしまう。何の説明もなく、勝手に納得してだった。 「えーと、佐々木?」  良くわからないまま授業が始まるのを待っている。期末試験も終わり、これといった進展もないのだから、時間潰しのような感覚がある。
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