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「もうすぐ夏休みか。そうなったら綾小路さんと電車で話せなくなるな……一ヶ月は長いよ。スマホの番号とか……は、さすがに教えちゃくれないか、気味悪がられておしまいだ。はぁ……どうしよ。あと二日か、折角話が出来るようになったのに、これで最後か寂しいな」
◇
下校のチャイムが鳴った。鞄に荷物をしまっていると、教室の外で悠を呼ぶ声が聞こえた。
「悠ちゃん!」
クラスの皆が振り返った、またか、と。ところがそのあたりの記憶が朧げだった悠だけが焦ってしまう。
「ちょ、ひかり先輩、何で教室に! みんな変な顔してるって」
鞄の留め具をキチンと閉めずに手にして立ち上がる。中味がバラバラと床に散らばった。慌てて拾い集めると無理矢理押し込んで教室から出る。その姿が皆の笑いを誘った。
「ちょ、ひかり先輩!」
「ははは、迎えにきたよっ」
「それはわかりますけど……恥ずかしいじゃないですか」
聞こえるかどうかの小さな呟き。ひかりはお構いなしに、悠の手を取ると歩き出す。放課後の約束を果たしに。
「さあ、じゃあ行くよ!」
「ひかり先輩、手! 手!」
「ん、手がどうかしたのかい?」
ひかりの左手ががっちりと悠の右手を握っている。いわゆる恋人繋ぎ、ではない。
「どうかしたって、みんな見てますって! ……俺がどうかしてるのか?」
すれ違う生徒が二人を見ては笑う。その笑いが何を意味しているかまではわからない。
「何で手を繋いでるんですか」
「何でって昨日だって朝も帰りも繋いでたよ?」
「きの……そうなんですか? 全然覚えてないけど」
何と無く生徒らの笑いの意味が一部理解できてしまったような気がした。また引っ張られているとい。
「そうだよ。昨日だって、入学式の時だって、中学の時だって、ずっとそうでしょ。今さらどうしたんだい」
きょとんとされてしまい、逆に悠がアレ? っとなってしまう。思い返せば、中学の一年生の時に出会って手を曳かれたのが初めて。ひかりが卒業するときも、今年高校に入学した時も、いつもひかりが手を曳いてくれていた。
4
「そう……ですね。ひかり先輩はずっと先輩なんですよね」
「悠ちゃん?」
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