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「『僕が料理を教えてあげるよ』忘れませんよ、あの時の言葉」
感慨に耽ってしまう。女子ばかりのクラブに一人ぼっち、誰に話し掛けても苦笑いして返事をしてくれない。やっぱり辞めよう、そう思った時にひかりが声を掛けて来た。
「最初はハンバーグだったよね」
「はい。でもそれで余計に周りのやっかみが酷くなったりして」
ひかりに憧れていた、二年の女子が嫉妬して悠に嫌がらせを始めたのだ。当然ひかりが知らないところで、悠も誰にも言えずに。言えばひかりに迷惑が掛かると。
「そうだったね、僕のいないところで」
「別の女子から回り道した話を聞いてやってきて『僕が悠ちゃんを守ってあげるよ!』って言われた時の衝撃は無かったな、ひかり先輩が女神に見えた位です」
男女の別はある、あるけれども未だ十二歳やそこらでは、一年、二年の年齢差があまりにも大きい。年長者が年少者を守ろうとするのは自然な流れ。
「ふぅん、あの時だけなのかな?」
「ははは、少し訂正しますね。あの時からずっとひかり先輩が女神に見えてますよ」
笑いながら、心の底にある想いをちらりと覗かせる。無意識に色々と喋ってしまったことは気づけずに。ひかりはそれを知ってしまっているので、大きく頷いて満足を示す。
「それじゃ訂正を受け入れようじゃないの」
それでも一年経ってひかりが卒業すると、悠はクラブを辞めてしまった。辞めさせられた、その方がより正確な表現かも知れない。女性ばかりのクラブで居場所がなくなってしまったのだ。
「ひかり先輩、また卒業しちゃうんですよね……」
「僕、大学を受験するんだ。でもまた二年で……いや、二年って絶望的な時間だよね」
二人が黙りこんでしまう、今回は同じ高校だったから関係が復活したけれども、大学はその数が違う。学力の問題や、学費も学部も様々だから。黙ってテーブルを見詰めて暫く時が流れる。
「ケーキ食べよっか!」
「そうですね」自分がいかに酷い相談をしようとしているのか、悠は全く気付かないで悩んでからついに口にしてしまう「ひかり先輩、あの……俺、今気になる人が居るんですよ」
「気になる人?」
それが綾小路という女性なことは既に知っている。話を遮ることも出来た、けれども向き合わなければまた離れてしまうという恐怖が勝ってしまった。
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