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「はい。いつも同じ電車に乗ってて、こんな俺なんかにも微笑んでくれて。なんか釣り合わないのは解ってはいるんですけど、凄くドキドキして……」
「何て言う娘なんだい?」
楽しそうな表情を作って、辛い内心を隠して付き合ってやる。そうせずとも別に良いのに。
「綾小路柚子香っていうんですよ。でも、通学の時しか話できないし、もうすぐ夏休みで……」
肩を落としてしまう。会えなくなることでこうまでなってしまう、自分ならばどうなるのかを考えてしまった。
「夏休みだよね、僕も暫く会えないのかな。それもやだな……」小さく呟いてから「……ね、誘ってみたらどうだい?」
「えと、誘う……ですか?」
そう言われても何をどうしたら良いか、悠は困惑してしまう。そんなことは百も承知でそのさきを想像するとひかりが提案する。
「ここに。ほらこれあげるから!」
財布にしまってあった自身の店の無料利用券を手渡す。宣伝の為に作ったものだ。
「でもイキナリはちょっと……間飛ばしすぎじゃないですか?」
「そこはもうダメで元々やってみなきゃね! でも断られてもちゃんと来てよね。ん、そうだ! 悠ちゃん、夏休みに僕がまたお料理教えてあげるよ」
それなら長い休みでもちゃんと会える、何よりも二人の時間が取れるのでとても嬉しい。ひかりならではのスペシャルだ。
「え、良いんですか!」
「うんうん、もちろんだよ悠ちゃんだもの。それでね、閃いちゃった」
「何をですか?」
やけに楽しそうに間をためてくる、ちょっと不安にもなってしまう。にやにやしてじっと見詰められると、何故か悠のほうが恥ずかしくなってきてしまった。
「綾小路さんのこと、僕が誘っちゃおかなってね!」
「ええっ! ど、どうしてそうなるんですか」
相手の事を何も知らないのに、どうしてそんなことが言えるのか。悠の常識では絶対に答えでない。
「だって、悠ちゃんが誘うより、女の子が誘った方が行きやすいじゃない。それにどんな娘か見ておきたいしね」
「うーん……そんなもんですか。でも誘うなんて出来るんですか?」
難しいだろう部分を指摘せずにはいられなかった。どういう経緯で結果を引き寄せるのか。
「出来るよ、僕が悠ちゃんに嘘を言ったことなんてあったかい」
「それは、一度もありませんけど」
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