本編

15/78
前へ
/147ページ
次へ
 いくらなんでもそれは……と尻込みする。が、ひかりは別に真の目的があったので勝手に手筈を考えてしまった。 「決まりっ! だから悠ちゃんは夏休みに僕のとこにちゃんと通うんだよ、いいね?」 「うーん、わかりました。ひかり先輩は強引だなあ」 「オネーサンに任せておきなさい。悪いようにはしないよ」一年四組のバスケ部部員が誰だったかを頭の中で速やかに検索する。そしてお願いが出来るかを判断して満足すると、これまた小さく呟く「これでどっちになっても悠ちゃんとは夏休みに会えるよね」 5  ケーキを上機嫌で口にする。どうして自分の為にそうしてくれるのか、相談したくせに全く理解出来ずにいた。 「それで俺はどうしたらいいんですか?」 「変わらず普通にしてていいよ。明日もちゃんとお話してくるんだよ」  今の時点で悠にしてもらうことはない、それは無事に成功してからの話だ。逆に間に入られてこじれたら分からなくなってしまう。 「それだけですか?」 「うん、それだけ。全部僕が何とかしてあげるから!」  にこにことして胸を張る。人並みのサイズではあるが、線が細いので少し大きく見えた。悠はじーっと見詰めてしまう。ひかりは急に恥ずかしくなったのか「うっ……」と口にして喋るのを控えてしまうのだった。 ◇  朝練のグラウンド。ランニングの最中に藤田夏希は、バスケ部のチーフマネージャーに芝生の傍らに呼ばれていた。 fab5cf78-8c52-4ac2-8904-4305e27235c8 「藤田さん、お願い!」 「チーフマネージャー、それはさすがに……よりによって綾小路ですよね……あいつはちょっと」  ひかりが両手を合わせて拝み倒す。そうはされても綾小路を誘って喫茶店でお茶……という光景は想像したくなかった。普段これでもかという位に冷たくあたっているというのに。 「ほんと頼むよ、この通りだからさ!」 「いや、でも……私はそういうの出来ませんから」  眉尻を下げて大困惑してイヤイヤとやんわりした言葉でお断りする。出来ないものは出来ないというのが自分も含めた皆の為。 「藤田さん、ワタクシからもお願いするわ。ひかりの頼み、なんとかきいてあげて貰えないかしら?」
/147ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加