本編

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 今まで何度も藤田から嫌がらせを受けていた綾小路だが、言われたら素直に返事をしてしまう。それが自身の意に添わずとも。クラスではなんだまたか、程度の反応でしかない。これといって気にするような者は誰も居なかった。 bf268acc-b444-4292-8ff4-114ad673344b 「……あの、お話って……」  また酷いことを言われるのかと半ば諦め気味でうつ向く。 藤田だけではなく、嫌でも従ってしまうのは結構日常でもあることなのだ。 「あー……別にあんたが嫌ならどうでも良いんだけどね……」切り出し辛い感じで一旦視線を外して間を置く。少ししてから小さく溜め息をついて続けた「夏休み、もうすぐだけど、その……何ていうか……」 「……はい?」  まったくもって要領を得ない呼びかけに、不審な表情を見せてしまう。今までにない感じだなとは気づいているけれども、全く先が読めない。 「あー、だから、もうなんでこんなことしなきゃいけないのよ。もう……その、あれよ、あんた時間作れる?」 「えと……はい」 「断ってもいいからね。……うーん……そのうち喫茶店にでもどう?」  むしろ断って欲しい、それなら先輩にも言い訳出来るなどと内心で思っている。きょとんとして何を言われているのかを少し反芻して、聞き間違いではないのを確認すると、目をパチパチして綾小路は答えた。 「えと、はい。誘って頂けるなんて思いませんでした」  承諾されてしまう。常々嫌な思いをさせられている相手だというのに、いともあっさりと。それは藤田の常識から大きく外れている。 「あんた、それ本気で言ってるの? ちょっと位嫌がりなさいよね。ってか普通行く?」 「はい楽しみです。藤田さんが誘ってくれるなんて嬉しいです」 「あー……わかった。いつにするか明日決めるから。それだけ」  申し出を受けてもらえたというのに、何故か釈然としない表情の藤田である。綾小路としては終始不思議でならなかったが、疑問はあってもそれで返事が変わることもなかった。今までもそうだった。自分が著しく不利でも、不満があっても、いつだって嫌だなどと断ったことなど無かったのだから。 ◇ 「あーあ、明日で学校最後だよ。ひかり先輩、あんなこと言ってたけどどうするつもりなんだろ?」
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