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ベッドに転がっている、あとはもう寝るしかない。ふと思い出して無料チケットを取り出してみる。宣伝用にしては随分と価値があるように見えた、何せケーキセットの利用券だ。スマホが着信を告げる。
「あ、ひかり先輩からだ」
「はい、木原です」
「ゆーうちゃん。今いいかな?」
「ええ、構いませんけど」
「ふふふ、ニュースだよニュース」
「どうしたんですか?」
「綾小路さんのこと上手く誘えたよ。はーい、拍手ー、パチパチパチ!」
「ええ! ほ、本当ですかそれ! どうやってそんな」
「ふふふん、どうだ、恐れ入ったかー」
「ひかり先輩凄いです!」
「ちょーっとおまけもついて来るけど、それはご愛嬌ってことで」
「おまけですか? それより、いつなんですかそれ!」
「おーさっそく食いついて来たね。それをじっくり検討しようと思ってさ。明日うちにおいでよ、ま・さ・か・嫌なんて言わないよね?」
「行きます! 是非行かせて貰います!」
「ふむふむ、素直でよろしい。んじゃ明日ね、おやすみぃー」
通話が切れても悠は興奮が醒めなった。奇跡のような状況が、他人によってもたらされたと。
「こ、これでまた会えるぞ! あ、でも会って終わったら同じだよな、どうにかしてその先を考えないと。うーん……明日ひかり先輩に相談してみよう」
眠ろうとしても眠ることが出来なかった。遠足前の子供のように、唸りながら寝返りを繰り返す悠であった。
◇
終業式。本来ならば厳かに行われるべき儀式であったが、卒業式や入学式に比べて気が軽く、更に夏休み前ということもあって生徒も教師も浮ついた感じが隠せないで居た。悠もそのうちの一人で、自由になったらすぐにでもひかりのところへ行きたいとうずうずしている。
教室へ戻り、教師のありがたい言葉を頂くと、鞄を掴んで走って教室を飛び出した。クラスメイトが呆れているのがチラッと視界の端で見えたような気がした。三年一組へ急ぎやってくると、ひかりの姿を見つけようと教室をキョロキョロと見回す。
「ひかり先輩!」
「え? あ……悠ちゃん」
まさか悠が教室にまでやって来るとは思っておらず、不意をつかれて少し固まってしまう。喜色を浮かべててまで振っている。
「あらあら、いつの間にかお迎えですか? ひかりも隅に置けませんね」
「ゆ、由美、そういうのじゃないって!」
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