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西田の指摘は半分正しく半分は乱暴な言い方だった。 その友達が同性なら普通だが、異性となると確かにそうかなと思える部分はあるが。
「俺らは先輩後輩の仲だ、そりゃちょっとは仲良さそうに見えるかも知れないけど。それは……」
「それは?」
「うーん、ひかり先輩は俺の師匠だから、かな?」
想定外の単語が飛び出してきた。師匠。何かの技術や伝統を伝える側の呼称。倉持は西田と視線を交わしたけどこれといって適当な何かが見当たらず、木原に視線を戻す。
「えーと、師匠って?」
「俺の料理の師匠なんだよ」
「ははは、僕が中学三年の時に家庭科クラブ部長をしててね、悠ちゃんがそこに入ってきたんだ。そんなわけで師匠といえば師匠だね」
キャスターつきの台に料理を載せて、先程の店員が戻ってきた。なるほどと受け止めると、西田が倉持に顔を近づける。
「味の好みが近いって強敵だよ」
「そ、そうね。師弟関係だってきいてちょっと安心したけど、そうよね」
ひそひそ話をしている間に、秋子が手際よく皿を並べて行く。 木原のスペシャルだけやたらと皿が沢山ついている。そして補助椅子まで持ってきて、そこへ店員が座った。何故?
「スペシャルって凄いですねこれ。ところで何で座ってるんですか?」
「当店のサービスでぇす。はい、秋子が食べさせてあげる。あーん」
スプーンにグラタンを載せていた店員に、ついに倉持が爆発した。立ち上がると腕を掴む。
「もうお母さんはあっちいっててよ!」
「もう時雨ったら、彼氏をとられそうで怖いのね」
「ちっ、ちがーう!」
二重、三重に色々とことが起きすぎて、何から反応して良いのかわからなくなる。背中を押して力任せに追い返して席に戻る。
「お母さん……だったんだ」
「叔母さん、そんなサービス聞いたことないし」
「大体彼氏じゃないし!」
「ははは、悠ちゃんって年上受けするよねー」
バタバタして暫し、ようやく皆が料理に箸をつけ始める。お腹もすいてるし、取り敢えず平常を取り戻そうとして。
7
「えーと、取り敢えず一つ以外はスルーしときたいけどいいかな?」
誰に向けたわけではないが、皆がうんうんと同意した。
「スペシャルだけど、千円でこんなについてていいのか? これ別会計だったら俺払えないぞ」
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