本編

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 達人は達人を知る、ではないが、違いが分かる人には仕上がりの凄さが理解出来るらしい。何と無く美味しいからで来てくれるだけで良いけれども、作り手にしてみればこういう反応はやりがいに通じる。 「え、夏休みなのに二人で?」 「俺さ、また料理を習いに行くんだ。ひかり先輩の家にさ」  女の自宅で個人授業という破壊力ある内容が明かされて倉持が不審がる。もしかしてそういう名目でおうちデートじゃないのかと。 「でも何で木原が料理って」  男でそれは珍しいと言えた、職業とするならば別だが男子高校生が料理は滅多にしない。我流でやるならまだしも、誰かにわざわざ教わりに行くとは。 「うちさ母子家庭なんだ。だから俺が出来ることしないと。母さんの負担少しでも減らしたいからさ」 「そっか、実はうちも。母さんあんなだけどね」 「私の家もそう」 「あらー皆そうか、じゃあ気兼ねなく話せるよねっ!」  昨今さほど母子家庭など珍しくないとは言っても、四人がたまたま集まりそうだったのは奇遇だ。言いふらすことでもないし、こういう雰囲気はほっとする部分もあった。 「そだ、来るときには電話してよね。私もなるべく店に居るようにするから」 「えー何でだよ、それに俺、倉持の番号とか知らないし」 「じゃあ番号交換するからスマホ出してよ」 「えーっ、面倒臭いな……ほら」  木原が白のスマホを差し出す。もう勝手にやってくれ、とばかりに渡してしまった。倉持は手にとると、素早く履歴を確かめた。 「昨日の夜にひかり先輩、他は太一って黒岩よね。母さんに……雪乃って誰かしら? 電話帳は……藤田、藤田自宅、色葉、一音、次音、浩か」  一度発信してから自分の名前を登録するとスマホを木原に返した。随分と登録数が少ない、ということは普段使っているものだけだろうと覚えておく。 「はい、入れといたわよ」 「おう……って、倉持時雨様ってなんだよ。変なことすんなよな、まあいいけど」 「藤崎先輩のは後で木原から聞いときますね。真琴のも後で教えるから」  西田は倉持をチラッとみてから、頷いた。口数が少ないやつだな、と木原は解釈した。その割りには大切な部分が伝わるのだから、結構するどいのだろうとも同時に感じている。 「ひかり先輩、そろそろ行きましょう」
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