本編

27/78
前へ
/147ページ
次へ
 昔は必ず左前髪だけを小さくリボンで纏めていた。高校生になって学校ではついぞ見かけないが、今は久しぶりに目にする。些細な変化ではあるが、妙に気になってしまった。 「あの、ひかり先輩って前はいつも片方だけリボンつけてましたよね。もしかして何か深い意味とかあったりしましたか?」 「え、これ? うーん、おまじない、かな」 「おまじないですか?」  ひかりはクッションを抱いてベッドに座ると続きを話し始める。部屋に悠がいるな、と微笑んでから。この部屋に呼んだことがあるのは二人だけ、深い深い事情があってもう増える見込みはない。 #__i_262a9ce8__# 「僕はね、小さい頃に難しい病気に掛かってたんだ」 「病気、ですか」 「友達と外で一緒に遊ぶこともできなくて、いつもベッドで一人きり。あちこちのお医者さんにみてもらったけど、治せるって先生は見付からなかったの」  難病、或いは状態によっては不治の病。原因がわかっても治療が出来ない、確率の問題で今も昔もそういう病は必ず存在している。 「ある時、また違う病院に行ったら、同じ歳の女の子が話し掛けてきたんだ。そこの院長の娘で、うちなら必ず治せるって。ただ足りないものがあって、それが無ければ手術も無理だって言われたの」 「それって何だったんですか?」 「難しくてよくわかんない専門的な何かと、僕と同じ種類の血液っていってた。珍しいんだって、百万人に一人とかの割合みたい」 「百万って!」  それは同じモノが存在しないのと同義である。砂浜に落とした米粒を探す程に困難な。稀に血液型でそういう特殊な属性を持っている種類があるらしいのは聞いたことがあった。RHのマイナスとかそういうやつ、それのAB型が特に厳しいとか。 「手術の費用も払えるような金額じゃなかったし。でも、僕に適合する血液が見付かったんだ、二人から」 「百万人に一人なのに二人も!」 「その女の子と院長先生だった。知ってたんだよねその女の子は。ママは何も言わなかったけど、偶然って言うにはあまりにも確率が低すぎるよ」  目を瞑り少し口を閉ざした。意味することが何かを悠でも理解した。 「姉妹……なんですよね?」
/147ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加