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「手術は成功して、でも費用は全く請求されなくて。その女の子が僕にリボンをくれたんだ、これを着けていてくれたら、いつかまた会えたときにすぐにわかるって」
「そう、でしたか。また会えたら良いですね」
そんなドラマみたいな話、現実にあるものなんだと悠が唸った。そして、心底また会えたら良いなと願った。会ってどうするわけでもないけれども、今はとても元気だよと話せたらなどと。
「実はもう悠ちゃんも会ってるんだよ」
ふふふ、と笑う。意外そうな表情をされてしまうのが少し愉快だった。
「え、俺が?」
「ふふ。由美なんだ、その女の子って」
真顔になりひかりが目を細めた、誰にも話したことがない秘密を悠に打ち明けた。何故話してしまったかは、自分にもわからなかった。そんな打ち明け話をされても互いに困るだけだろうに。
「榊先輩がひかり先輩と姉妹。それって、そんなことがあるのか? いや、あるんだよな」
真剣だった表情を一転させてひかりが笑顔を見せる。誰かに話をすることで、気持ちが軽くなった事実があった。
「これ秘密だからね、悠ちゃんだけにしか話してないんだよ。破ったら責任とってもらうからね!」
「責任って!」
「男の子が取る責任は昔から一つでしょ!」
そういわれたら何と無く浮かんでしまう、嫌とは感じなかったわけだがそれは直ぐに忘れてしまう。勝手に話しだして、責任なんてとか言い出して抗するという考えは全くない。
「うーん、言いませんから、安心して下さいよ」
「別に話しちゃっても良いんだけどな、責任さえとってくれるなら。むしろうっかり話してくれたらなって思ってる」
どちらになってもひかりは満足だと思っていた。話してしまって後悔するどころか楽しみが出来た位に。
「えーと、まだ結構時間ありますね。俺が早く来すぎたんですけど」
無理矢理に話題を転じてしまう。今はこのくらいで許してやろうと、ひかりもそれに乗ってやった。
「そうだね、付き合ってあげてるんだから僕を楽しませてよね!」
行くも退くも大変だと、悠は意外なところで窮地を迎えるのだった。
◇
どっと精神的に疲れてしまった悠とは対称的に、ひかりはご機嫌で調理場に入っていた。互いの力関係というのは久しぶりでも変わらないものらしい。
「パイをオーブンから出しておいてね」
「はい」
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