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「あっ! そっか、藤崎先輩がそうなんだ! その時は名前とか言ってなかったよね」
「で、お前と同じクラスの友達ってことで綾小路さんか?」
二人で納得していたが、残る二人は全く疑問が解決していなかった。生きて来た道は全員が違う。
「あの、木原さんと藤田さんはお知り合いなんですか?」
綾小路が疑問を言葉にする、出来るだけ短く明瞭に。知り合いは知り合いだろうけれども、聞きたいのはそこではないはずだ。
「えーと、私らは知り合いでいいのかな? うーん……それもなんか寂しい感じの表現な気はするけどさ」
「うーん、俺とお前は友達って感じじゃないよな」
藤田が微かに悲しそうな表情を浮かべる。ただの知り合いなどと思われていたら、ここを飛び出して泣きたくなる。心臓がぎゅっと握られてしまってるかのような苦しさが感じられる。
「なんだろな、最近こそ少なくなったけど、前はちょくちょく家で飯食ってたし、いつも普通に居すぎてて。んーあれだ、もうお前は家族みたいなもんだよな。ははは!」
「か、家族って! なんか、凄く大事な部分飛ばしてるけど……そんな風に思ってくれてたんだ。そっか」
9
「そーなんだ藤田さん、へー、随分と仲良しだったんだね」
綾小路に至っては表現に驚きすぎて言葉が出てこない。藤田はほっとしたどころか、今度は別の意味でドキドキが止まらなくなってしまう。
「えっと、は、ははは。なんかそんな感じ、かなぁって?」
「俺が作った料理の味付け、ひかり先輩に教えて貰ったやつだから、お前もきっと気に入るぞ。よく俺のを旨いって言ったもんな!」
中学時代は普段から木原の家に常駐しているかのような頻度で現れていたものだ。ガチャやトレカではコモンとか呼ばれてしまうような出現率。
「そんなにいつも一緒だったのかい?」
「中学時代はこいつと家で飯食った数、結構多かったもんな。なあ藤田」
「えーと、そう……なのかな? わかんないや、ははは」
とぼけてはいるが、中学の二年間で朝昼晩と指折り数えると、もしかしたら千回を数えるかも知れない程だ。和気あいあいとした雰囲気に、綾小路も笑顔が溢れた。普段見る不機嫌で冷徹な藤田とは、似ても似つかない表情に少し驚きながらも。
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