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茶化すではなく真面目な顔でひかりを直視しながらそう言った。二人だけではなく、余人を交えているというのにだ。
「そ、尊敬だなんて、言い過ぎだよ! 僕は別にいつものようにだね……うーん、そんなに美味しいってなら毎日だって作ってあげても良いんだけどね……」
視線を伏せてボソボソと呟く。ベタ褒めされて嬉しいやら恥ずかしいやら。
「俺、本気でそう思ってますから。今こうやっていられるのも、ひかり先輩のこの料理のお陰です」
心の奥底から出て来る気持ちに偽りはない。表現は過大な部分もあるかも知れないけれども、決して間違いでもない。
「木原……何か悔しいな私。いや、悲しい? あれ、何だろこの感情は?」
「とても真っ直ぐな気持ち、何かちょっとカッコいいです」
木原の言葉に三者三様、何かしらの気持ちを抱いた。それは決して不快なものではなく、どこか感情に響くもので、色々と考えが渦巻いてしまう。
「ははは、みんなありがとね。何か作った甲斐があったよ、ほら食べて食べて!」
食事を済ませるとアップルパイを切り分けて並べる。紅茶にはベリーのジャムを添えて。
「こっちは初めて作ったんだよ。皮が真っ赤なリンゴで鮮やかさが特徴だね。ナパージュには柚子も少し混ぜてみたんだ」
「いい香りです、すっきりとした。見た目も彩りよく、輝いてます」
「美味しそう!」
ジャムを紅茶に混ぜて一口飲む。アップルパイにフォークを刺して口に運んだ。幸せな気持ちになれるデザートとはこれだろうか。笑顔で美味しいを繰り返す姿を見て頷く。
「そかそか、上手に出来てるみたいで良かったよ」
「何か満たされるな、この俺もこの半分でも腕があれば毎日が上向くような気がする」
「ははは大丈夫だよ、僕が教えてあげるから、ちゃんと通うんだよ」
「はい、お邪魔します」
長い人生だ、自分で美味しいものを作ることが出来たら楽しいだろう。やった分だけ自分のもの、心持ちも違ってくる。
「え、木原通うんだ。でもそれってチーフマネージャーと二人きりってこと? 良くない、それって良くないよ! 何とかしなきゃ、でもどうやって?」
藤田が口元を押さえて、二人の仲を何とか引き離そうと考える。昔からのことで、木原に気を向ける女は全て排除してきたのだ。
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