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「料理か……私も作れるようになったら、木原も喜ぶよね! 綾小路も習いたいって言わせとけば、チーフマネージャーも断れないわ。よし、そうしよう。二人きりは絶対にダメ!」
その場でどうすべきかの判断を速やかに下し、実行に移す。可能かどうかは予測できている。
「綾小路、あんた料理はどうなのよ」
「あの、苦手です」
「じゃあ習ってみたら? 私もそうしてみたいなって考えてたんだけど」
「私がですか?」
そんな提案に綾小路も木原も驚く。予想外のことが続くものだから、随分と焦ってしまった。あの藤田がなぜそんなことを言いだしたのかと。ひかりとしては申し出があるなどとは考えなかったのだが、ここぞとばかりに話に乗っかる。
「お、二人ともやってみるかい? 僕は全然構わないよ。悠ちゃんはどうかな」
「俺は……良いと思うな。自分の為になるし、誰かの為にもなるから」
上手く行けば綾小路と会う機会が増えるから、という下心で打算した。元よりそれが目的だったわけだが、このあたりの打ち合わせはしていない。
「あの、どうしましょう、お願いしても良いんでしょうか?」
「綾小路、やるわよね?」
目がいつもの藤田になっていた。断るようなことをさせない、そんな目だ。考えて後で連絡します、などという逃げは絶対に許さない。
「えと、はい。お願いします」
「よーし、じゃあ決まりだね! ほら悠ちゃん、兄弟子から何か一言無いのかい?」
「兄弟子って。ひかり先輩、俺を含めて宜しくお願いします!」
しっかりと約束を守ってくれたひかりに感謝しかない。ずっと頭が上がらないんだろうなと思わせてしまう程のものの運び方に感心するばかりだ。
「ふふん、どーんと任せなさい。そだ、僕は悠ちゃんに連絡するから、二人は悠ちゃんから連絡受けてね。番号交換とかしとくんだよ」
悠にウインクしてくる。もう全てが思い通りになる魔法にでもかかったかのようだった、敵わない相手は存在する、それもごく身近にというのを思い知った。
「あー、はい。藤田のは知ってるから、綾小路さん、嫌じゃ無ければお願いします」
「はい、こちらこそ宜しくお願いします」
二人は電話番号を交換した、アドレスも一緒にだ。目的を果たした悠は心臓がバクバクいっていた。まるで夢を見ているかのようだ。
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