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「部活があるから頻繁にとはいかないけどね。出来るだけ機会を作るようにするよ」
ひかりはひかりで、自分の目的の為のついででしかない。皆が満足しているなら、これこそがコミュニケーションというものだろう。
「綾小路さんって部活は?」
「あ、私は特に何もしていません」
「じゃ俺と同じだ。藤田はバスケだし、上手く機会を活かせそうだな」
「はい、そうですね」
話がまとまったところでそろそろ解散になる。変にこじれたりしないように、良い状態で今日を終わるのもまた大切な一手である。
「後は僕がやっておくから、悠ちゃんは二人を送ってあげなよ」
「はい、わかりました!」
ひかりの家からは二十分ほどは掛かるだろうか、駅まで三人で歩くことになった。藤田は最初綾小路を送るというのに良い顔をしなかったのだが。
「綾小路さんは新生南駅なんだ」
「はい、そうです。ちょっと遠いんです」
新生南街は高級住宅地として知られている。電車で十分掛からない場所ではあるが、遠いといえば遠い。少なくとも歩いて行ける距離ではない。
「それにしても、藤田、急に料理を習うとかってどうしたんだ?」
「え、そ、それは、ほら、私だって出来たらいいなって」
動揺を何とか隠そうとするも、若干不審な動きをしてしまう。何せ本音を言えるはずもない。
「藤田さん、一緒に頑張りましょうね」
「え、うーん」
「藤田、何だよそれ。ちゃんと返事しろよな」
「うるさい、なんで木原は綾小路の肩持ってるのよ」
不機嫌そうな顔をして木原を責める。どうしてこんなことになってるのかを説明も出来なければ、そもそも話すつもりもない。積み重なって今がある、そんな想いが不満になる。
「そりゃ誰だってそうするだろ」
「誰だってって、まあ綾小路はこんなだから」チラッとみて、男受けするだろう顔も身体もと思い「そう、なのかな」木原もか、と落ち込んでしまう。
「いいか、俺は身内を甘やかすようなことしないってーの。当たり前だろ」
「木原さんは本当に藤田さんと仲が宜しいんですね。うらやましいです」
藤田の不安や不満とは裏腹に、木原は理由をはっきりと明かした。顔を見てもはぐらかしているのではなく、そうだと信じているのが理解出来た。他の誰かには解らずとも、藤田は確信できる。
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