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「あ、そんな怒るなよ、ちょっと揺れてる髪が気になっただけだって。もう言わないから機嫌直せって」
「え、揺れてる髪? ポニテ? 私、何を!」
「お前さ、ずっとその髪型だろ。俺結構好きなんだよな、ははは」
まあいいや、と歩いて行ってしまう。焦った後に、急に苛立ちを覚えてしまう。
「木原がそう言ったからずっとこうしてるの! せっかくの機会だったのに、私のバカ! ううん、まだ挽回のチャンスあるわ!」
折角の機会を自ら潰してしまった藤田は肩を落としてから、直ぐに気合いを入れなおして木原を追いかける。今日は随分と気持ちが忙しい。マンションの803号室。何年も前から変わり映えのしない風景、木原はここで育ってきた。
「明日からしばらく暇だな、どうすっかな」
部活をしていない身としては、学校が無ければ確かに暇を持て余してしまう。しかもこれから何十日と続くのだから参る。休みというのはやりたいことがあってこそ価値が出て来るものだ。
「木原も部活したらいいのに」
「パース。俺、そういうの得意じゃないし」
腹も一杯ではあるが、一応コップに麦茶を入れて二つ置く。小さめのテーブルには椅子は四脚で限界、この限界を超えたのは二年前。木原、藤田、黒岩、新田の遊び仲間が家に来た時に、母親も起きていたたったの一度キリだ。
「じゃあ何か趣味とかは」
「パソコンちょっとやるくらいで、趣味らしいものないんだよな」
「まったく今までどうやって生きてきたのよ」
「何となく。まあお前らいたしな」
半ば呆れて言ってみたりはしたものの、自分が居たからなどと返されてしまい藤田は反論も出来なかった。本当に今日は感情の動きが激しく揺さぶられる。
「じゃ、じゃあさ、部活終わった後また寄るから!」
「んー、それ夜だろ。昼は長いんだぞ、また丘でごろごろしてっかな」
すぐ裏にある丘。公園の外れで道路が下にあるので、よう壁が切り立っている。そこからの街の景色は綺麗だった。木原は昔からそこが好きで良く座っていた。
「昼間はご飯作ってて、私が帰りにそれを食べに寄るってことでいいじゃん」
「俺はお前の何なんだよ。ってか藤田が料理か、予想外にも程があるぞ」
笑いながら茶化す。いつも手伝いといえば食器を並べたり、洗い物をしたりするだけだったのだから。
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