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全員が席についていたら空いているのが木原のそれになるのだが、あちこちに動いて固まって喋っているので、急にやって来たひかりにはどこかの見当がつかない。その姿をみて一人の女性が近寄って来た。
「失礼。私はクラス委員長の佐々木令子と申す。先輩が一年三組にどのようなご用事か?」
騒然としているクラスから、委員長が立ち上がり問い質す。古風で変な感じの喋り、冷静な表情、ひかりと背丈はほとんど同じ位で、後ろで髪を一つに縛っているけれど、本来の毛先は腰のあたりまで伸びる程長い。
その佐々木令子の大きな特徴は、綾小路に勝るとも劣らない胸の大きさだ。姿勢がとても良いのでぐっと突き出すかのような体勢が、より大きく見せているのかもしれない。
「あっ、藤崎先輩だ。何で木原と一緒なんだろ?」バスケ部の一年リーダー、北川睦が部活のチーフマネージャーに勢いよく挨拶をした「おはようございます!」
「あっ北川さん、おはよっ。えーと佐々木さん、悠ちゃんの席はどこかな? 何だか朝から様子がおかしくて、連れてはきたけど心配なのよほら」
言葉が聞こえた範囲で教室の空気が一気に変わる。「悠ちゃん」とのフレーズ、それが示す意味を探って皆が勝手な妄想を始めた。
「様子が? ……ふむ、確かに。木原の席はこちらです」
言を認めて先導する、言われるがまま席についた彼だが、ぼーっとしているのは変わらない。 明らかに異常で、まずは椅子に座らせてしまう。
「熱とかあるわけじゃないんだけど、ぼーっとしちゃって。授業始まっちゃうから僕は行くね、後はヨロシク!」
片手をあげてパタパタと教室を出ていく、その後姿は軽快でご機嫌さが伺えるかのようだった。或いはピョンピョンとでも跳ねるような感じで。
「承知した。ふむ、放心状態か、一時的なものであろうか。とはいえもうすぐ授業が始まるな。玲奈、こやつに異常が無いかを見ておくのだ」
ふと視線を横にずらすと、黙ってすぐ隣の席で見ていた星川玲奈に一言告げる。目を細めて一度木原を見てから佐々木に視線を戻す。
「は? 何で私が」
「隣席であろうに。異変に気付いた時に声を上げれば良い、そうすれば後は私が引き受ける。頼むぞ」
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