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住所を調べてみると、幸いマンションなので解りやすかった。住所の枝番では一般人は個人宅を見付けることは結構難しい。呆けている悠を引っ張りそのまま大体の住所を頼りに歩き出す。何丁目、というのを道路わきの標識でチラチラ探すと目当てを発見する。
「あ、あれだね! やっと見つかったよ」
803号室を目指してエレベーターで昇る。順番に目で追って行くと、表札が木原となっているのが見えたので間違いは無さそうだ。
「はーい、到着だよ!」
扉の前でぼーっと黙っている悠をひかりが小突く。片手を腰に当てて人差し指で肩のあたりをツンと。
「こーら、鍵だしてよねっ」
「あ、はい」
それはそうだと言われてひかりに差し出す。自分で開けようとの気にはならなかったらしい、彼女はそれを見詰めてまた一つため息をつく。
「もう、ほんとおかしいよ悠ちゃん?」
鍵を回して扉を開けると背中を押した。中はこじんまりとしたリビングに、部屋が二つだけ。母子家庭なのでそれで充分なのだ。突っ立ている悠を椅子に座らせて何度目になるかの溜め息をつく。
「全然話にならないよね、どうしたのか聞くまでは流石に僕も帰れないよ。ねえ、悠ちゃん。今日一体何があったのかな?」
「あー、ひかり先輩、俺、電車で……」
うーんと唸ってから喋り出すも、電車といったところでまた黙ってしまう。根気よく相手をするしかなさそうだ。
「うん。電車でどうしたんだい?」
「初めて綾小路さんと話が出来て、また声を掛けても良いって。スマホを落としたから拾ったんだ。変な女がいてぶつかってきたから」
支離滅裂とはこのことだろう。一つ一つの言葉の意味はわかるが、何を伝えたいかは全くわからない。それでも何かを伝えようとしているので、状況を自分で考えてみる。
「えーと悠ちゃんが頭を打ったわけじゃないよね。綾小路さんって誰かな?」
「綾小路さんは、毎日の楽しみで……ずっと同じ電車に乗ってて、スマホを見てて……」
初めて話したということは、ただ毎日見ていただけ。それが楽しみというのは範囲がかなり狭い。
「それってもしかして……綾小路さんって、女の人なのかい?」
「同じ学校で隣のクラスに居るみたい。だけど……電車で見るだけでよくわからなくて」
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