本編

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 否定も肯定もせずにだらだらと話を続ける。原因が女だとわかり、ひかりは何だか悲しくなってしまった。誰かのせいでこんなにも心の余裕を失ってしまっている。なのに自分はここで何をしているのか。 「そう、なんだ……。ごめんね、僕が家になんかまで来ちゃってさ」 「綾小路さん、優しかったんだ……なんか……」  ひかりが視線を伏せてしまい、悠の言葉を聞くまいと踵を返す。これ以上ここに居るのはあまりにも辛すぎると。 「ごめん、僕は帰るね。明日また! ……もう聞きたくないんだ……」  すぐさま部屋から逃げ出そうとすると、悠が言葉を繋げる。別にひかりが帰ろうとしたからではなく、そのままの調子で平坦に。 「……なんか……ひかり先輩みたいで……俺なんかに笑ってくれて……無いよな……嬉しいよ、はは」 「悠ちゃん? 僕みたいだから……嬉しかったの? じゃあ……」  意識して言っていないのは朝からの調子で明らかだ。本心からそうだと言っている、ひかりはえも知れない何かが胸に湧き上がるのを感じた。このまま扉から出て行くと激しく後悔する気がして、勇気を奮って振り返る。 「ねえ、悠ちゃん。悠ちゃんは僕のこと、どう思ってくれてるのかな?」  世話焼きなだけの先輩でもいい、中学時代の知り合いでも構わない。嫌われていないならそれだけで、と心のラインを下げていく。もし痛烈な返事があれば立ち直れないとわかっていても、聞かずには終わらせられなかった。 「ひかり先輩? ……先輩は、俺の大切な恩人です……憧れの人で、尊敬する人です……」 「そ、そうなんだ! 今日はゆっくり休むんだよ悠ちゃん、またね!」  ひかりは軽い足取りで部屋を出た、つい数秒前とは正反対の気持ちになれて。 792c73fd-31ba-4c5b-9ef7-12a32d9c8e33 3 ◇  夢から醒めて翌日、朝早くに駅について何故か時計を見ながら数本の電車を見送る。満員なわけではない、目当ての時間が決まっているのだ。 「キタッ!」  定刻のそれに乗ると左右をキョロキョロとして人を探す。日に何本も同じような車両が通過するけれども、一度も違ったものに乗っていたことが無い。今日もドキドキしながら車両を移ると、ついに端に座る綾小路を見つけて歩み寄る。彼女はいつものようにスマホを見ていたが顔を上げた。 「綾小路さん、おはようございます!」
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