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ポストの向こう側
オフィスビル一階には郵便局がある。
住宅地図を頭に叩き込んで、現地の現況を視界に入れる。それを記憶したのは先月のことだった。
屋根のついた、曲線を描く歩道を通りオフィスビルの入口に向かうと、入口内部に常駐の警備員の姿が見えた。俺の姿を見て目の色が変わる。
そのオフィスビルは広大な敷地に四棟の高層ビルが建ち、郵便局や銀行ATM、レストランやコンビニ、歯科医院、カフェ等がある。近隣住民も利用するようで、テナントに勤めるスーツを着たサラリーマン男性以外にも、買い物帰りと思われるマイバッグから長ネギが飛び出している高齢女性もいる。
そのオフィスビルに勤務している人と見慣れた地域住民とは一線を画す俺の姿を、その警備員は細かな目の動きで追っていた。
――警備員さんお疲れ様でーす。ぼく、こう見えても警察官なんですよ。
心で呟いた言葉で口元が緩む。そしてその警備員に目礼した。
右に行き、開放感のあるアトリウムを越えて郵便局へ行く。
オフィスビルに勤める人が詰めかける昼時のピークタイムを過ぎた局内は閑散としているが、局内でも俺の姿を見た局員が動揺を隠せない様子だった。
――目つきの悪い長めの茶髪パーマでチャラい俺は警察官に見えないですもんねー。
俺は郵便の窓口で葉書を一枚と局員に伝えた。受け取った葉書を手にして、記帳台に向かう。
視界の端に入る局員は俺を見ている。
葉書に郵便番号を書き出した時、音楽プレーヤーから伸びる有線イヤホンに擬態した無線から連絡が入った。
ボールペンを戻す。
葉書を腰ポケットに差し込む。
踵を返して走り出す。
来た道を戻る。
入口には立哨の交代で二人の警備員がいた。
入って来た時とまるで違う雰囲気の俺――見た目通りの俺――が走って自分たちに向かって来るのは怖かっただろう。二人とも身体が強張っている。
――ごめんね。でもぼく警察官だから大丈夫だよ。
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