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節子より伝授された『女の武器』。
それは『胸で、意中の男性にボディータッチする』こと。
しかし男性とつき合ったことすらない美紘が、そんな大胆なことできるはずもない。
困り果てた美紘は、とりあえず相談できる女性、姫頭に相談を持ち掛ける。
姫頭は女性の屋敷神、オシラ様の片割れだ。
「ねぇ、姫頭。どうしたらいいと思う?」
節子から伝授された奥義を姫頭に説明し、どうすれば再度、将真に話を聞いてもらえるかを相談する。
《胸ね・・・私は、やったことないけど》
「やっぱりぃ?」
《でも節子はハタチで結婚するまで、結構ブイブイ言わせてた方だから》
「そうなの?」
《あの子の行動力はバカにならないわ。今でいう肉食系女子だったの。そこそこ可愛いかったから、モテたし。その『武器』の話も、あながち嘘ではないのでしょうね》
「うう、姫頭ぅ~」
《なに?》
「私は、どうすればいいの?」
それを、その『奥義』を、実行に移すことを想像すると恥ずかしくて、涙目になってくる。
《あ、そうだ》
「なに?」
《前に、漫画でこういうの見たことある》
そう言って姫頭は、ひとつの作戦を美紘に提示する。
その作戦とは・・・
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「わー!遅刻、遅刻ぅ!」
そう言って、主人公の女の子はトーストを口に咥え、家の玄関を出る。
そうして学校へと向かう途中、曲がり角で男の子とぶつかる。
その男の子は転校生で、主人公と同じく学校へ登校する途中だったのだ。
バチ――ン☆
(注:星が飛ぶ描写アリ)
「うわーん。いたーい!」
「あー、イテテテテ」
転校生の男の子は、主人公とぶつかった拍子に右手をつく。
主人公の胸の上に。
「キャッ、イヤ!」
「あ、ごめんっ!」
それ以来、主人公と男の子は、お互いを意識するように・・・
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「・・・・・」
開いた口がふさがらない美紘が、思わず言葉を漏らす。
「姫頭。それ一体、いつの漫画?」
《けっこう最近だったと思うけど・・・50年くらい前?》
姫頭はこの世に呼び出されて、およそ550年の時が経つ。
姫頭にとっての50年前は、『最近』と言っても差し支えない。
姫頭の出典の古さには目をつむるものの、
結局は何か行動を起こさなければリベンジはならない。
とにかく美紘は『女の武器』発動のチャンスを狙うべく、
学校帰りの将真の後をこっそりついて行き、虎視眈々と『その時』を待っていた。
◆◆◆◆◆
「桜川さん。こんなところで、何してる?」
進神公園の出口の前で、将真に見つかってしまった。
美紘の、隠密尾行。
「あれぇ?偶然だね」
とりあえず美紘はお茶を濁す。
「僕に、何か用?」
「用っていうか・・・折本くんの方こそ、何してたの?」
質問には、質問で返す。
うまく言い逃れできないときは、これだ。
「僕?」
「うん、そう。何してたの?」
こっちに話が回ってこないよう、真顔で質問する。
「僕は、パワースポットを調べていたんだ。ほら、進神公園の井萩池はそうだって言うだろ?」
「パワースポット?!」
来た!
チャンス到来!
いい、言い訳できた。
美紘は、新聞部の真理香に感謝する。
「私もちょうど、新聞部の記事でパワースポット調べることになってたの!」
「え?」
「すごい偶然!」
「桜川さん、新聞部・・・」
「いるでしょ、あなたのクラスの東條真理香って新聞部員。あの子に誘われて、入っちゃったんだよね~」
「そうなんだ・・・」
話が、美紘のペースになってきた。
ここは押す。
押して、押して、話の主導権を渡してなるものか。
リベンジするのだ。
「ねぇ、折本くん」
「ん?」
「パワースポットの件で、井萩池のこと、取材させてくれる?」
「取材?」
「真理香に言われてんの。パワースポットの記事書けって」
「そう・・・」
「でも私、記事ってどんなこと書けばいいのか思いつかなくて・・・だから、折本くんの調べたこと、聞かせてくれないかな?」
「いや、僕だってそんな・・・」
将真はそう言葉を濁し、渋っていた。
将真は渋っていた。にもかかわらず、美紘は強引に近くのカフェへと連れ込む。
『取材』だと言い張って。
目的のためには、多少強引にもなれる。
そういうところは美紘も、宗匠である節子の血を、確かに引き継いでいるのかもしれない。
「私は、アイスカフェラテ。折本くんは?」
美紘が、カフェ入口のレジで注文をする。
「僕はコーヒー。あ、ブラックで」
「取材で来てもらったんだから、ここは出しとくね」
本当は新聞部から何の経費も出ないのだが、ここは降霊術の修行のため。リベンジのため、可能な限り将真のご機嫌を取る。
「いや。出してもらう謂れがないから、自分の分は払うよ」
そう言って将真が財布を出すものだから、
万年金欠の美紘は「え、そう?」と、救われた気がして『おごり』を突き通せなかった。
◆◆◆◆◆
ホットコーヒーとアイスカフェラテを乗せたトレイをレジで受け取った将真は、店内の空席を目で追い、4人掛けのボックス席へと座る。
後からついてきた美紘が、ボックス席に座る将真と、テーブルを挟んで反対側の空席を、交互に見返す。
美紘は、席に視線を送るだけで、
なかなか着席しない。
テーブルの前で、ただ突っ立って席を見つめている美紘を見て、将真も疑問に思う。
「どうしたの?」
声をかけてくれた将真を見て、
美紘は、意を決して将真の隣の席へと腰を下ろす。
ボックス席の、対面の席が空席であるにもかかわらず。
「向こうの、広い席に座ったら?」
そう、将真が問いかけるが、
「いいの、私こっちにする。取材だから、資料とか見るとき目線が同じ方がいいから」
と、なんだか意味の分からない言い訳を口にし、けむに巻く。
そう。
将真の隣に座らないと『女の武器』は発動できない。
節子より伝授された『女の武器』。
それは『胸で、意中の男性にボディータッチする』こと。
ボックス席の対面に座ろうものなら、美紘の胸は、いくらがんばっても将真に届く筈もない。
将真から、アイスカフェラテを手渡された美紘は、緊張していた。
これから始まるリベンジに。
まずは気を引くのだ。将真の。
将真の気をこっちに向かせ、そして再度お願いをする。
『武将の怨霊』を使った、荒療治の修行を。
それが早道なのだ。
美紘が、一人前の降霊術師になるため。
今日はなんとしても、将真にその同意をもらう。
それが、先日一度、断られた美紘のリベンジ。
将真が、美紘に気すら許してくれなければ、同意も了承もないだろう。前回と同じことになるだけ。
だから距離を詰める必要がある。
美紘と、将真の間の距離を。
それに必要なら『女の武器』だって、何だって美紘は使う。
その覚悟はある。
見習え! 節子の肉食系。
まずは差し当たって、場を和ませよう。
将真の心をほぐすのだ。
「じゃあ、聞かせてもらっていい? 井萩池のこと」
美紘はメモ帳を片手に、ニッコリと笑みをたたえ、問いかけた。
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