第6章 女の武器 と 男の決意

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 節子より伝授された『女の武器』。  それは『胸で、意中の男性にボディータッチする』こと。  しかし男性とつき合ったことすらない美紘が、そんな大胆なことできるはずもない。  困り果てた美紘は、とりあえず相談できる女性、姫頭に相談を持ち掛ける。  姫頭は女性の屋敷神、オシラ様の片割れだ。 「ねぇ、姫頭。どうしたらいいと思う?」  節子から伝授された奥義を姫頭に説明し、どうすれば再度、将真に話を聞いてもらえるかを相談する。 《胸ね・・・私は、やったことないけど》 「やっぱりぃ?」 《でも節子はハタチで結婚するまで、結構ブイブイ言わせてた方だから》 「そうなの?」 《あの子の行動力はバカにならないわ。今でいう肉食系女子だったの。そこそこ可愛いかったから、モテたし。その『武器』の話も、あながち嘘ではないのでしょうね》 「うう、姫頭ぅ~」 《なに?》 「私は、どうすればいいの?」  それを、その『奥義』を、実行に移すことを想像すると恥ずかしくて、涙目になってくる。 《あ、そうだ》 「なに?」 《前に、漫画でこういうの見たことある》  そう言って姫頭は、ひとつの作戦を美紘に提示する。  その作戦とは・・・  ----- 「わー!遅刻、遅刻ぅ!」  そう言って、主人公の女の子はトーストを口に咥え、家の玄関を出る。  そうして学校へと向かう途中、曲がり角で男の子とぶつかる。  その男の子は転校生で、主人公と同じく学校へ登校する途中だったのだ。  バチ――ン☆ (注:星が飛ぶ描写アリ) 「うわーん。いたーい!」 「あー、イテテテテ」  転校生の男の子は、主人公とぶつかった拍子に右手をつく。  主人公の胸の上に。 「キャッ、イヤ!」 「あ、ごめんっ!」  それ以来、主人公と男の子は、お互いを意識するように・・・  ----- 「・・・・・」  開いた口がふさがらない美紘が、思わず言葉を漏らす。 「姫頭。それ一体、いつの漫画?」 《けっこう最近だったと思うけど・・・50年くらい前?》  姫頭はこの世に呼び出されて、およそ550年の時が経つ。  姫頭にとっての50年前は、『最近』と言っても差し支えない。  姫頭の出典の古さには目をつむるものの、  結局は何か行動を起こさなければリベンジはならない。  とにかく美紘は『女の武器』発動のチャンスを狙うべく、  学校帰りの将真の後をこっそりついて行き、虎視眈々と『その時』を待っていた。  ◆◆◆◆◆ 「桜川さん。こんなところで、何してる?」  進神公園の出口の前で、将真に見つかってしまった。  美紘の、隠密尾行。 「あれぇ?偶然だね」  とりあえず美紘はお茶を濁す。 「僕に、何か用?」 「用っていうか・・・折本くんの方こそ、何してたの?」  質問には、質問で返す。  うまく言い逃れできないときは、これだ。 「僕?」 「うん、そう。何してたの?」  こっちに話が回ってこないよう、真顔で質問する。 「僕は、パワースポットを調べていたんだ。ほら、進神公園の井萩池はそうだって言うだろ?」 「パワースポット?!」  来た!  チャンス到来!  いい、言い訳できた。  美紘は、新聞部の真理香(まりか)に感謝する。 「私もちょうど、新聞部の記事でパワースポット調べることになってたの!」 「え?」 「すごい偶然!」 「桜川さん、新聞部・・・」 「いるでしょ、あなたのクラスの東條(とうじょう)真理香(まりか)って新聞部員。あの子に誘われて、入っちゃったんだよね~」 「そうなんだ・・・」  話が、美紘のペースになってきた。  ここは押す。  押して、押して、話の主導権を渡してなるものか。  リベンジするのだ。 「ねぇ、折本くん」 「ん?」 「パワースポットの件で、井萩池のこと、取材させてくれる?」 「取材?」 「真理香に言われてんの。パワースポットの記事書けって」 「そう・・・」 「でも私、記事ってどんなこと書けばいいのか思いつかなくて・・・だから、折本くんの調べたこと、聞かせてくれないかな?」 「いや、僕だってそんな・・・」  将真はそう言葉を濁し、渋っていた。  将真は渋っていた。にもかかわらず、美紘は強引に近くのカフェへと連れ込む。  『取材』だと言い張って。  目的のためには、多少強引にもなれる。  そういうところは美紘も、宗匠(24代目)である節子の血を、確かに引き継いでいるのかもしれない。 「私は、アイスカフェラテ。折本くんは?」  美紘が、カフェ入口のレジで注文をする。 「僕はコーヒー。あ、ブラックで」 「取材で来てもらったんだから、ここは出しとくね」  本当は新聞部から何の経費も出ないのだが、ここは降霊術の修行のため。リベンジのため、可能な限り将真のご機嫌を取る。 「いや。出してもらう(いわ)れがないから、自分の分は払うよ」  そう言って将真が財布を出すものだから、  万年金欠の美紘は「え、そう?」と、救われた気がして『おごり』を突き通せなかった。  ◆◆◆◆◆  ホットコーヒーとアイスカフェラテを乗せたトレイをレジで受け取った将真は、店内の空席を目で追い、4人掛けのボックス席へと座る。  後からついてきた美紘が、ボックス席に座る将真と、テーブルを挟んで反対側の空席を、交互に見返す。  美紘は、席に視線を送るだけで、  なかなか着席しない。  テーブルの前で、ただ突っ立って席を見つめている美紘を見て、将真も疑問に思う。 「どうしたの?」  声をかけてくれた将真を見て、  美紘は、意を決して将真の隣の席へと腰を下ろす。  ボックス席の、対面の席が空席であるにもかかわらず。 「向こうの、広い席に座ったら?」  そう、将真が問いかけるが、 「いいの、私こっちにする。取材だから、資料とか見るとき目線が同じ方がいいから」  と、なんだか意味の分からない言い訳を口にし、けむに巻く。  そう。  将真の隣に座らないと『女の武器』は発動できない。  節子より伝授された『女の武器』。  それは『胸で、意中の男性にボディータッチする』こと。  ボックス席の対面に座ろうものなら、美紘の胸は、いくらがんばっても将真に届く筈もない。  将真から、アイスカフェラテを手渡された美紘は、緊張していた。  これから始まるリベンジに。  まずは気を引くのだ。将真の。  将真の気をこっちに向かせ、そして再度お願いをする。  『武将の怨霊』を使った、荒療治の修行を。  それが早道なのだ。  美紘が、一人前の降霊術師になるため。  今日はなんとしても、将真にその同意をもらう。  それが、先日一度、断られた美紘のリベンジ。  将真が、美紘に気すら許してくれなければ、同意も了承もないだろう。前回と同じことになるだけ。  だから距離を詰める必要がある。  美紘と、将真の間の距離を。  それに必要なら『女の武器』だって、何だって美紘は使う。  その覚悟はある。  見習え! 節子の肉食系。  まずは差し当たって、場を和ませよう。  将真の心をほぐすのだ。 「じゃあ、聞かせてもらっていい? 井萩池のこと」  美紘はメモ帳を片手に、ニッコリと笑みをたたえ、問いかけた。
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