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「梅島さんは美紘が、どうして『口寄せ』が苦手なのか。その原因は把握していらっしゃいますか?」
節子のその問いに、梅島は答えることができなかった。
これから美紘とペアを組んで、警視庁で働いて行こうとする梅島にとってそれは、把握しておくべき重要な事項だ。
「美紘は、霊力の制御が苦手なんです」
節子は、美紘の欠点を語り出す。
今回の『口寄せ』の修行が失敗に終わり、道場の中で飛び回って遊んでいた馬頭と姫頭も寄ってきて、節子の左右の肩にとまって「ウンウン」と同意する。
当然、目の前の梅島にはオシラ様の姿は見えない。
節子と馬頭は口を揃えて『不出来な教え子』をどうすれば一人前にできるのか、その方法論を語り始めた。
まず、美紘は霊力が強い。
『強すぎる』とも言える。
その制御がうまくできず、不用意に美紘の強力な霊力を浴びた仏さまの霊魂は、この世への未練や執着が吹き飛ばされ、気持ちよくなってしまい『口寄せ』に入る前に成仏してしまうのだ。
だからといって美紘が霊力を抑えようとすると、
今度は抑えすぎて、オシラ様と意思疎通できなくなる。
美紘の霊力が強すぎて、
ちょうどよい具合の制御が、できないのだ。
では、どうすれば良いのか。
まずは地道に霊力を制御する修行に励むのが正攻法。
しかし、これは一朝一夕とはいかず、それなりに時間がかかる。
少し荒療治の方法を考えると、『この世』に未練や怨念が強い霊魂を降霊させること。
そのような強い執着を持つ霊魂であれば、多少の霊力を浴びても簡単には成仏しない。
そうして強い霊魂を美紘に憑依させることで、憑依の経験を積ませることで、霊力の制御を体感として覚えてもらう。
そうは言っても『未練や怨念が強い霊魂』なんて、なかなかいるものではない。
試しに近場の心霊スポットに巣食う地縛霊を、美紘へ憑依させようとしたこともあったが、
そこらの地縛霊では簡単に成仏してしまい、これまでに美紘が霊魂の憑依までこぎつけられたことは一度もなかった。
だから、
桜川家でも探すが、警察としても『未練や怨念が強い霊魂』を探して、もし見つかったら美紘の練習台になってもらうよう、節子は梅島にお願いした。
梅島には霊感がまったくない。
『未練や怨念が強い霊魂』と言われても、それがどんなものなのか分からない。
とりあえず梅島は、上司に頼る。
「宗匠様のおっしゃること、承知しました。署に戻りましたら、上司の国定にも伝えておきます」
警視庁捜査一課の国定管理官は、昭和・平成と節子とコンビを組み、数々の難事件を解決まで導いた旧知の仲だ。
その国定・節子コンビは稀代の名コンビ。
しかしそれは、これから梅島・美紘コンビへと引き継がれていくべきもの。
そのため梅島は、美紘の修行を手伝うのだ。
可能な限りにおいて。
ひとしきり説明を聞き終えた後、
梅島は道場を後にし、帰宅することにした。
◆◆◆◆◆
「それでは、失礼いたします」
一礼をして去ろうとする梅島を、節子は玄関から見送る。
「あ!ちょっと待ってください!」
節子の後ろから、美紘が声を上げた。
「私もコンビニに用があるから、送って行きます。駅まで一緒に行きましょう!」
「え?送ってくれなくてもいいよ。それはどちらかというと、僕の役目だし」
そんな梅島の言葉も聞き流し、美紘は白い羽織を脱ぎ、ブレザーの制服姿へと戻る。
「もうちょっと待っててください。すぐ戻りますから!」
美紘は、白い羽織とイラカタ念珠を持って、自分の部屋へと駆ける。
美紘が部屋のタンスに羽織とイラカタ念珠をしまい込み、
鏡に自分の姿を写し、前髪の形を1本1本整える。
--よし、バッチリ
そのときフと、節子の言葉を思い出す。
『イイ男がいたら 《女の武器》 を使いなさい』
「あ、そっか」
美紘は、通学カバンからポーチを取り出し、
ボディミストのボトルを振って、シュッと胸元へ吹きかけた。
ふんわりシトラスの甘い香り漂うミストが、美紘の鼻をくすぐる。
鏡の前で、ニッコリと自分の笑顔の出来を確認して、美紘は自室を飛び出す。
「お待たせしましたぁー!!」
そうして美紘は、梅島と一緒に南部桜川流降霊術の道場を後にする。
駅までの道すがら、
美紘は何てことない話をしながら、
浮かれ気分でコンビニまでの道のりを、梅島と一緒に歩いた。
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