唐突なマインスイーパー

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とりあえず家に帰ってからの行動を洗い出そう。 僕が家に帰ってからご飯を食べて、僕が食器を洗って、二人でソファに座ってテレビを見始めた。 ご飯を食べる前もちゃんと食器の準備はしたし、食事中も妻の機嫌を悪くするようなことは言っていない、はずだ。 いや絶対に言っていない。 もし言っていたら、食事中から妻の機嫌は悪かったはず。 しかし、食事中はずっとにこやかだったし、嫌味も言ってこなかった。 ではそのあとに原因が? 食器を洗ったことに関しては妻の気に障ることはしないはずだ。 以前妻に教えられた通り、丁寧に食器を洗って水切りラックに立てかけた。 立てかける順番も、妻に指示された通り食器同士が被らないように置いた。 食器を洗った後も台所に飛び散った水滴はキレイにふき取ったし、そもそも嫁はご飯を食べた後から一度もキッチンに行っていない。 見てもないのに怒り出すなんて、そんな理不尽なことはしない、はずだが。 ではそのあと? ソファに座ってテレビを見るだけで怒り出す人間なんているのか?! いやそんなキレやすい人と結婚してしまうほど、僕は見る目がない男ではないはず。 あぁ、理由がわからない。 理由がわからないと機嫌を取ることだってできない。 機嫌が直らなかったらずっとこのままだ、それは勘弁してほしい。 どうしよう、どうすればいいんだ。 心臓の震えがどんどん大きくなって、ついには手まで震えだしてきた。 とりあえず落ち着こう。 目をつむり深呼吸をして、前を向いて目を開く。 目の前のローテーブルを挟んだ向こう側では、毎週金曜日のこの時間帯にやっているテレビドラマが流れている。 妻はこのドラマが好きらしく、金曜日の夜のテレビはこのドラマを見ることが確定している。 正直、僕にはこれの良さはわからないんだけど、そんなことを言ったら妻になんて言われるか見当がついている。 ドラマの中では探偵が事件の犯人を特定するために、犯行現場にきて調査を行っている最中だ。 非現実的なシーンを見ることで僕の心は少し落ち着きを取り戻した。 ふと実は僕が気にしているだけで妻は怒ってないんじゃないか、そんな希望が頭をよぎり、妻を横目で観察してみる。 あ、普通に怒っている。 普段は花のように可愛い顔をしているが、今は眉間にしわを寄せてじっとテレビを見つめている。 何が怒ってないんじゃないか、だ。 三年間結婚生活をしてきて、僕の勘が外れたことなんてなかったじゃないか。 かすかな希望を打ち砕かれて、落ち着きを取り戻した心臓はまた震えだした。 もう一回落ち着きを取り戻そう。 不安になるなと自己自身に言い聞かせる。 僕は妻というマインスイーパーを攻略するプロであると自称できるくらい様々な地雷を避けて生きてきた。 実際のマインスイーパーなら地雷を一つでも踏めば爆発してゲームオーバーだが、現実はそんな簡単な話ではない。 踏めば踏むほど毒のように僕の寿命を削っていくのだ。 だからできるだけ地雷は踏まないほうがいいし、挽回は早いほうがいい。 そう考えると、一発ゲームオーバーよりは優しいのかもしれないが。 いやマインスイーパーの話はどうだっていい。 とりあえず、妻に探りをいれて怒っている原因を探さなければ。
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