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当時、あのシャンプーは爆発的な人気を誇っていた。
雑誌でもよく取り上げられ、CMもよく目にした。
シリーズでコロンも発売され、ドラッグストアに行くとよくテスターを手首に吹きかけたものだ。
子供ながらに、いい香りに包まれると大人に近付いた気がして高揚した。
家に帰って手を洗うのが惜しかった。
買おうと思えばお小遣いで買うこともできた。
だけど私はそうしなかった。
本当はそうしたかったけど、できなかった。
そうして密かに憧れているうちに、シャンプーもコロンも、いつの間にか売り場から消えていた。
口をゆすいでタオルで拭く。髪の乱れをワックスで軽く整える。
狭いキッチンに戻ってガスの確認をし、教科書の入ったトートバッグを肩にかけて玄関に向かう。
今日は一コマ目から講義があった。
代返が効かず遅刻に厳しい教授なので、一分でも遅れるわけにいかない。
私は行ってきます、と誰もいない部屋に向かって小さく声を出し、かちゃんと部屋に鍵をかけた。
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