23.また明日※

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23.また明日※

「………っんぁ、あ、待ってまだ…」  すりすりと先走りの汁を握った棒の先端に擦り付けて、私はブルッと身体を震わせます。ロカルドは二本の手で私の胸の形を変えながら、時に尖った頂を(つね)ったりするので私は一瞬たりとも気が抜けません。  いちいち報告こそしていないものの、何度か軽く達しそうになったので目を瞑って気持ち良さを逃がすことに集中しました。必死に耐える私に、もしかするとロカルドは気付いているかもしれません。  寂しくなったら唇を合わせてみます。  言葉なんてなくても、どこか満たされた気がしました。  私は時々忘れてしまいそうになります。私を求めて、熱っぽい瞳で視線を絡めるこの男はもしかすると私に気があるのではないかと。しかし、それは勘違いも甚だしいことで、実際のところ私はただの肉人形でしかありません。  主人が求める罪深い慰めを提供する動くダッチワイフ。金銭的な遣り取りまで発生しているので、言い逃れは出来ません。給料日にはたんまりとお金が入りますが、どこか心が虚しくなりました。  ロカルドは無知ゆえか、私が今まで働いたどんな立派なお屋敷の当主よりも高い時給を与えてくれます。それは、同僚のオデットも言っていたので確かなはずです。私は自分たち使用人がミュンヘン男爵家の資産を食い尽くしていないかと最近心配になるほどです。 「考え事か……?」  ロカルドが私の顔を覗き込みます。  私は首を振ってまた主人の上に跨ります。  挿入こそしていないものの、スカートを託し上げて布越しに自分の秘所を擦り合わせると、気持ち良さを感じることが出来ます。この行為は、なんともいえない背徳感がありました。  決して交わらない私たちが、一つになったようで。 「ロカルド……貴方が私の奴隷で良かった」 「そうだな。俺も君に会えて良かったと思う…こんなこと誰にも頼めないし、助かってるよ」 「でしょうね。ヴィラモンテに新たに越してきた若い男爵がこういった特殊な趣味を持っているなんて、他の令嬢が知ったらどう思うかしら…?」 「………っ、」  彼の良いところを掠めたのか、ロカルドが苦しそうに目を閉じました。その頬に手を添えてキスを落とします。  きっと私たちは分かっています。  この関係に未来はありません。  ここ最近、ロカルドの元を気品のある男たちが立て続けに何人か訪れて来ました。彼らはどうやら仕事の関係でミュンヘン男爵家を訪問したようです。オデット曰く「ミュンヘンの残党」なのだとか。  ロカルドがまた事業を起こすのであれば、彼はきっと今よりもっともっと忙しくなるでしょう。町の世話焼きが持って来た縁談のファイルが机の上にひっそりと積み重ねられているのを知っています。  彼がそれらを置き忘れているのか、それとも私へ見せ付けているのか分かりません。下女は下女らしく身分を弁えろと、小さな私が叫んでいます。  自分の中の独占欲が少しだけ膨らんでいること。  見えないフリをしているけど、知っているのです。 「……時間だわ、帰らなくちゃ」  私は時計に目をやって言いました。  壁に掛かった時計の針は七時を少し過ぎています。  ムンッとするほどの情事の匂いが鼻を突きました。私たちが夢中になっている間も時間は進みます。衣服の乱れを整えて部屋を出て行こうとした私の腕をロカルドが引きました。 「アンナ……また明日」 「ええ、またね」  私たちにはいったいあと何度の明日があるのでしょう。  答えは知りたくないので、逃げるように更衣室へ向かいました。
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