44.攻守交代※

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44.攻守交代※

 ギシッとベッドが軋む音がしました。  時計はもう八時を回っています。  私は頭の中で帰りのバスの時間を考えました。 「どうした。もう終わりか?」 「あっ……!?」  下から突き上げられて、私はまた軽く達しました。  ぐじゅぐじゅになった蜜口は主人の男根を咥え込んで離しません。何度も抽挿を繰り返したそこは、どちらのものか分からない濁った体液で濡れていました。  両手をベッドの背に固定されたロカルドは圧倒的に不利なのに、いつもの奴隷らしい素直さは何処へやら、勝気な顔で私を見上げています。  引き締まった身体にまたがって腰を振っているのは私なのに、私は終始、自分が犯されているような気がして落ち着きません。 「女王様、お疲れなら代わりましょうか?」 「……ん、いいえ。まだ、余裕があるから」 「それなら良かった」  薄く笑う男を見下ろして、私は自分の身を引っ張り上げてなんとか凶暴な雄を鎮めようと奮闘します。再び挿入すると自重でズリズリと肉壁が抉られて、また意識が飛びそうになりました。  思わずへたりと倒れ込むと、赤子のように口を開けたロカルドが私の胸を吸いました。桃色に染まった突起の周りをなぞるように舐められれば、じわっと奥から快感が滲むようで。 「っはぁ……あぁ、いやっ、やめて…んんっ!」 「いやだと言うなら離れれば良い。貴女は我儘な人ですね。俺はこの通り縛られて身動きが取れない。主導権は女王様にあるのですよ」 「……ええ、あっ、そうね。私が動くか……らっ!?」  突然ぐりぐりと最奥へと捩じ込まれた肉塊が暴れ出します。乱暴な馬を乗り込ませない騎手のように、私は涙目になってロカルドの腹に手を突きました。  最悪です。このままではダメです。  私はプライドをもって取り組む必要があります。  だって、これは仕事なのですから。 「っあ、待って、それ以上動かないで……ロカルド!」 「じゃあ退けばどうですか?動けない俺に良いように犯されるのは君の意思だろう。ほら、ナカが締まってきた」 「そんなわけ……ん、あぁ、いやっ、」 「痙攣してる。気持ち良いのか、アンナ?」 「良くないわ、私の名前を呼ばないで…!」  瞬間グッと一際深く挿し込まれた剛直が、私の奥をトンッと突きました。 「んあっ……!?」 「ここが好きなんだろ?」  その弱い場所を何度か突き上げられれば、もうよく分からないぐらい気持ち良くなって、四肢の感覚がなくなりました。涙なのか汗なのか分からないものが頬を滑ってロカルドの胸の上に落ちます。  いつのまにか手品師のごとく縄を抜け出した私の奴隷は、私の肩に手を当ててベッドの上へ押し倒しました。達したばかりでまともに動かない手足の代わりに、私はキッとロカルドを睨み付けます。 「話が違うわ!攻守交代はなしでしょう?」 「申し訳ありません、女王様は寝技が苦手なようなので…僭越ながらお手本をお見せしますね」 「なっ、なにを……ッ…あん、あ、あぁっ」  ばちゅんっと打ち込まれた杭は奥まで私の肉を抉って、あまりの衝撃に頭の中で火花が飛びました。休まる間もなく繰り返される抽挿に頭がおかしくなりそうです。  だらしなく開いたままの私の口を奴隷は唇で塞ぎます。  何もかもどうでも良くて、頭がふわふわしました。 「アンナ……─────、」  ぐっと抱き寄せられて耳元で囁かれた言葉が何だったのかよく聞き取れませんでした。私はただビクビクと震えながら情けなくロカルドにしがみ付くので必死で、それどころではなかったのです。  その言葉をきちんと理解していれば、私たちの関係はまた少し違っていたものになっていたかもしれません。
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