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64.過ぎし夜の言葉※
少しだけ湿度が上がったように感じる部屋の中で、私は先ほどから聞こえる甲高い声が自分のものであるとようやく気付きました。慌てて口元に押し当てた手が、ロカルドによって離されます。
「……っ…旦那様、」
「名前を呼んでくれ」
「ロカルド……んぁっ、ロカルド…!」
熱に溶けた頭の中で、私を自分の下に沈めて好きに弄んでいるこの男が、奴隷なのか、はたまた敬うべき主人であるのか考えます。奴隷にしては強気です。主人にしてはやけに優しい手付きなのです。
というか、仮にも男爵家の当主である男が、使用人の身体を舐め尽くすとは何事でしょう。丁寧に丹念に、ピチャピチャと音を立てながら厭らしく舌を這わす姿はまるで犬です。
「もう十分ですから、おやめください……!」
「いいや足りない。思えば今までの俺たちは捻れた関係の中で遊んでいたから、こうして恋人のように君に触れることが出来るのは実に新鮮だ」
「でもそれは貴方の希望……っあ、」
私が女王として彼の身体を蹂躙していたのは、ひとえに彼がそれを望んでいたからです。決して私の個人的な趣味ではありませんし、性癖でもありません。断じて。
「んっ、あ、あぁ…ッ……ゆび、」
「アンナ、力を抜いて」
「へんです、おくが……っあ、おく、ああっ!」
私の肉壁を確かめるように進んでいたロカルドの指が、最奥を何度かノックをするように指の腹で叩くと、ショワッと何かが勢いよく吹き出しました。
私はびっくりして起き上がり、自分の股の下に出来た水溜まりとペロリと指を舐め上げる主人を見比べます。
何が起こったのかは理解しましたが、どういうことかは分かりませんでした。初めての経験だったのです。風俗店で働く女王として、女性が稀に潮を吹くという知識はありました。しかし、それはあくまでも伝説的なものだとばかり……
「……な…なんなんですか!」
「ん?」
「前から思っていましたけど、貴方はどうしてここまで女体に精通しているのですか!?私は女王なのに…!」
「ああ、まだそういうのが良いのか?」
嫌な笑顔を浮かべてロカルドは自分のガウンの紐を解きます。姿を表した凶暴な雄に私は絶句しました。
とんっと押されれば非力な身体はすぐに再びシーツの海に沈んで、私は自分の耳元で獣の荒い息遣いを感じました。本能がこの獣は危険であると警告しています。
「君はあくまでもプレイを続けたいんだな。それならば、俺も役を演じてやろう」
「………っあ、んぅ…!」
ぬるりと湿った舌が首筋を這って耳に捩じ込まれます。
私は、自分の身体がバカになったのではないかと恐ろしくなりました。震えが止まらないのです。耳から伝わる刺激に応えるようにビクビクと脚が震えて、直接流れ込む低い声はお腹の奥に響きました。
「今となっては後悔すらしている自分の過去だが、こうした行為に長けた君を喜ばせるために使えるなら悪くない」
「え……?貴方、ちょっと何を…!」
「女王様、準備はよろしいですか?」
「待って、まっ………ふあぁっ…!?」
唾液やら蜜やらで十分に潤った秘穴に、獰猛な肉杭が打ち込まれます。裂けるのではないかと心配した身体は、しかしながらみちみちとその雄を咥え込みました。
「……っ…あ、ロカルド、ゆっくり、」
「本当に…夢みたいだ、アンナ……」
熱に浮かされたように私を見つめる双眼に、なんとか落ち着くように目で語り掛けましたが、何を勘違いしたのか肉棒は奥へ奥へと侵入します。
「……っはぁ…半分、入った」
「え?」
「あと少し……」
唖然としながら目を点にする私の上で苦しそうに主人は目を閉じます。私の頭がボケていなければ、彼は先ほど半分と言ったようです。半分とはつまり、半分でしょうか?
え、半分?
「待って…!ロカルド……ッ……っお…!??」
ぱちゅんっと肉と肉が触れ合う音と共に、一番奥を突かれたので私は先ほどと同じものがまた少し股から流れるのを感じました。頭の中がチカチカするのです。
もうずっと苦しいのに気持ち良いような状態が続いていて、よく分からない私の額にキスを落としてロカルドが動き出します。
「あぁ、アンナ……っ…ずっと、こうしたかった」
「っん、あん…!あ、あぁ……ひぁっ!?」
双丘を掴まれて硬くなった胸の先端を舐められると、もしかするとこれは夢ではないかと思えました。だって私はもうずっとフワフワしています。
たしかに寝技では彼に及ばないと内心白旗を上げていたら、ゆるい抽挿がやや勢いを増して、ロカルドが私を強く抱き寄せました。
「アンナ……愛してる、」
いつかの夜が記憶に蘇ります。
私はようやく聞けた言葉を胸に、目を閉じました。
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