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65. 赤い花と青い服
「アンナ、ルシファーが服を届けてくれたが…」
私は毛布から顔だけ出してキッとロカルドを睨み付けました。彼は不思議そう表情を浮かべて首を傾げます。その素振りすら腹立たしいのに、私の手足は棒切れのように脱力していてベッドから起き上がることも出来ないのです。
「旦那様!これではあんまりです!」
「どういう意味だ?」
「私は今日どんな顔をしてミュンヘン邸に帰れば良いのですか!ギックリ腰を患ったとでも…!?」
「ああ、そういうことか」
納得がいったように手を叩いてロカルドがベッドの淵に腰掛けました。ギシッと軋む音に私はまた不安を覚えます。
伸びて来た大きな手がポンポンと頭を撫でると、我が主人は清々しい顔で「無理をさせて悪かったな」と言って退けました。完全に確信犯であり、反省などしていない人間の顔です。
あの後、それはそれは様々な技を繰り出してくれたロカルドが私を解放したのはもう空が白む朝に近い時間でした。満身創痍だったので泥のように眠りましたが、起きたら有り得ないほどに身体が痛いのです。これでは仕事になりません。
訴え掛ける私を説得するようにロカルドは宥めます。
「仕事?それは今日はもう良い。君は君にしか出来ないことをやってくれたから」
「……もう二度と御免です」
「そんなことを言うな。バスの時刻までまだ時間があるが……」
言いながら私のガウンを捲ってくるので私は慌てて浴室へ飛び込みました。鏡に映った自分を見ると、肌の上にはまばらに赤い花が咲いています。
(………あの変態…!)
握った拳を振るわせながら、なんとか怒りを鎮めて私は外へ出かける準備をすることにしました。熱いシャワーを浴びて、用意してもらった服に着替えると幾分か気分はマシになります。普段は選ばないサファイアブルーの鮮やかなワンピースはロカルドの瞳のようで少し落ち着かないのですが。
それから、私たちはホテルのロビーでルシファーとその妻であるコリンと合流しました。
私は二人に感謝を何度も述べましたが、二人とも「僕らは用意されたお金で買っただけ」と笑顔で首を振るだけです。貴族らしい生活は出来ないと言う我が主人の十分貴族らしい振る舞いに、彼は気付いているのでしょうか?
私が見上げた先でバスの時間を確認していたロカルドは「出発しようか」と手を差し出します。おそらく私のことをただの使用人だと思っているであろうルシファーたちの前での大胆な行動に、私はドギマギしながらその手を取りました。
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