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物々しい雰囲気の中、あれよあれよという間にトトムの王様の目の前に連れて来られ、猫のもふもふの着ぐるみを着たまま立ち尽くすミリナ。
一応、カーテシーらしき挨拶を済ませたが、ドレスを着ていないせいで美しさも礼儀もへったくれもあったものではない。
「ふむ、そう怖がらなくてもよい。まずは名前を聞かせてはくれまいか」
「私は隣国オリニヨンから参りました。シュロス子爵家の長女、ミリナ·シュロスでございます」
王は穏やかな表情でうなづいている。
「オリニヨンから参ったと?」
「はい、その通りでございます」
「もう話には聞いたと思うが、我々は異世界からやって来るはずの聖女を探しておる」
「はい、存じております」
王は、ミリナの青い瞳の奥を覗き込むようにして言った。
「そなたは聖女ではない、ということかな」
「はい、聖女ではございません。この姿をご覧になって疑っているのかもしれませんが、この服は我が家の専属の職人に作らせたもので、決して異世界から持って来たものではありません。もう少しで、狸とレッサーパンダとライオンの着ぐるみも完成する予定なのですが、ご覧になりますか?」
「……いや、その前にそなたの身元を証言できるものが近くにいれば問題はないのだが、誰かいるだろうか?」
やっとその質問きたー!とルンルンで答える。
「もちろんでございます。そもそも伯母の家で病気療養をするためこちらに参りましたので、トトム郊外に住む伯母に会っていただければ、身分は証明できると思います」
「うむ、承知した。リッツよ、すぐ確認に向かえるだろうか」
「もちろんです」
そう答えたのは最初から王の近くに佇み、ミリナの様子をうかがっていた美しい顔立ちの青年だった。厳かな雰囲気を保ちちつつも、優しげな雰囲気を身にまとっている。
ミリナがあまりに不躾に見つめるので、王がフォローしてくれた。
「会うのは初めてであろうか?余の息子、第一王子リッツ·オパ·トトムだ」
「そ、それはそれは存じ上げず大変失礼をいたしました。あまりに綺麗なお顔立ちでしたので、見惚れていたのでございます」
ほぼ事実だった。オリニヨンのファーレルも、ちょっと、いや、だいぶ気持ち悪いといえども整った顔立ちをしており、美しい部類に入ると思われる。しかし、それとは比べ物にならないほど彼は気高く尊かった。
「そのようなお言葉をいただき光栄にございます」
軽く会釈する姿さえ眩い光が見える。これが本物の王子様なのだ。今まで見ていた王子たち(とりわけファーレル)はエセ王子だったということだろう。
「失礼いたします」
近衛兵のような騎士が扉から入って来た。
「お話中申し訳ありませんが、隣国オリニヨンより使者が参りました。第三王子ファーレル様でございます。ミリナ様に関してお話があるということで、お通ししてもよろしいでしょうか」
「うむ、通せ」
えぇ、何でファーレル様が現れるの、話がややこしくなりそうだから帰ってほしい……そうミリナが思ったころには時既に遅し。
「突然の訪問をお許し下さいませ。オリニヨン第三王子のファーレルと申します。婚約者ミリナが異世界から来た聖女だと誤解されていると知り、急いで駆けつけたしだいにございます」
いや、いつから婚約者になったんだ。さっき王宮に連れて来られたばかりなのに来るの早すぎないか?もしかしてつけられてた?まだクレア伯母様にもお会いしてないのだが。
ミリナの不安は見事に的中したのだった。
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