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約束通り、リッツ王子は伯母クレアのもとへと送り届けてくれた。二人は馬を並走して色々な話をする。
「その服はもう量産されているのですか?」
「この着ぐるみですか?いえ、まだ試作段階です。もうすぐ狸とレッサーパンダの着ぐるみが届くのでそれを着てからですね。あ、ライオンも」
なぜかリッツ王子は着ぐるみに興味津々なようだった。
「試作ができたら見てみますか?」
「ぜひお願いしたいですね。着心地はどうなんでしょうか」
「最高ですよ!暖かくて馬乗りにも最適です。逆に夏用は通気性のある涼しい生地を考えないといけませんが」
「ふむふむ」
「今私の着ているの服の問題点としては、トイレがしにくいということですね。一体型なので面倒くさいんです。だから新たに発注したものは、セパレートタイプとワンピースのドレスに近い形です。こんなのがほしい、とデザイナーに依頼して、細かい部分はおまかせしました」
「それはおもしろいですね」
リッツは目を輝かせている。
「でしょう?上手くいったら量産予定です。あ、ちなみにこのもふもふの猫耳触ってみます?最高に気持ちいいんですよ」
リッツは馬を止め、馬に乗ったままミリナの側に近づき手を伸ばした。ふわっといい香りがミリナの鼻をくすぐり、危うく落馬するところだったのをどうにか持ちこたえた、というのは彼女だけの秘密だ。
「何て気持ちいいんだ……」
「でしょう?生地は私が選びました。ただ、どうしてもコストが嵩むので、量産するときは生地から練り直しですね」
「トトムでも売っていいだろうか?貴族に売るのであれば、これと同じ生地で問題ないと思う。さすがに一般の民に同じ生地は値段が高すぎるだろうが、貴族に高額で売りさばいた後なら、ある程度余裕もできるだろうし」
王子様……貴族を出汁に使う気満々だな、と思わずくすっと笑みが溢れるミリナ。
「ん?何か?」
「王子様も商売人なんですねぇ。しかもけっこう悪徳な」
「そうか?国益のためだぞ?あるところからお金を吸い上げるのは王族の役目だ。もちろん私も購入する」
「ありがとうございます。ロイヤリティは九十パーセントでお願いしますね」
「いや、それはミリナ嬢こそ悪徳では?王室が破産してしまうではないか」
リッツ王子は声を上げて笑った。体が細かく揺れ、振動に合わせてきらきらと粉が舞うように輝いている。
本物の王子様は、体からきらきらな粉が生成されるのだとミリナは驚いた。ん、もしかして、このきらきらの粉を集めたら売れるのでは?……と思ったことはまだ誰にも伝えていない。
「職人やデザイナーたちに賃金を払わねばなりませんから」
このような会話を繰り広げていくうちに、伯母クレアの家に到着する。互いにもう到着したのかと驚くほど短時間に思えた。
「もっと話したかったのに残念だな」
「私もです」
「また商売の話をしに来ていいか?」
「もちろんでございます。狸とレッサーパンダの着ぐるみが届いたら、試着してすぐにお届けに上がりますね。あ、ライオンも。ライオンは勇ましいぶんかわいらしく作ったつもりです。リッツ王子にお似合いだと思いますよ」
「それは……喜んでいいのか?」
二人は馬に乗ったまま見つめ合い、声を出して笑った。
名残り惜しく、いつまでもその場を動こうとしない二人だった。
(了)
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