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 少し、うとうとしてしまったのか、壇は地面に手を突いて起き上がろうとした。  手元が、ほのかに光を放っていた。  足元にガラスのような輝石が転がっていて、星の光を透かしたり、反射したりしているのだ。  立ち上がると、透明な地面を踏みしめて歩きだした。 「ここは ───」  見たことのない風景が広がる。  空には花束を解き放ったように、無数の星々がさんざめく。  人気(ひとけ)のない場所なので、ゆっくりと視線を巡らせることができた。 「綺麗だ ───」  さらに歩いて行くと、ひらひらと地面から沸き立つように鳥が横切っていく。  次から次へと白くて薄い物が空へと舞い上がるのだった。  遠くて良く見えなかったが、大量の白い鳥が星屑に溶け込んでいった。  平らな岩場が広がっていたはずが、いつの間にか右にも、左にも切り立った岩山がそそり立っていた。  そこには、やはりガラスのように透き通った岩がキラキラと星の明かりを写していた。  空の果てには、黄色い地平線が薄いグラデーションで空のキャンパスの境目を明るくしている。  夕暮れと言うよりも、何かが登ってくる前触れのように感じられた。  先ほどから空へと吸い込まれていく、白くて軽い物体が星の数を増やしていく。  地面はますます明るくなり、薄ぼんやりと空を青くした。  壇は少し休もうと、傍らの岩を見回した。  膝丈(ひざたけ)ほどの岩に腰かけると手足を伸ばしてから、もう一度空を見上げる。  ふう、と息を吐き出すと手の平を返してじっと見つめた。  何も持っていないから、そろそろ腹が空くのではないだろうか。  だが、不思議と満たされた気持ちだった。  次第に足に力が(みなぎ)ってくると、頭から地面を覗き込むように身をかがめ、足先に力を込めて立ち上がる。  眩しいほどの空は、優しく壇の身体を包んでいた。
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