11、帰還した夫の勘違い

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 ライザスを乗せた馬車は侯爵家に向かって森の中を走り抜けていた。  晴れて清々しい天候なのに、ライザスの胸中は曇っていた。  なぜならリリアからの手紙がぱたりと途絶えてしまったからだ。 (妻に何かあったのかもしれない)  リリアに会える喜びよりも、不安のほうが大きかった。  早く顔を見て安心したい。何事もなく無事でいてほしい。  彼の脳内は暗く重い闇に包まれていた。  気持ちが急いていたので、ライザスはいつも帰還するめどが立つと侯爵家に連絡を入れていたが、今回はそれより早く自分の足で帰ることにした。  侯爵家は突然の主人の帰還に全員が驚き、慌てふためいた。  執事のアベールはそれでも冷静にライザスを出迎える。 「お帰りなさいませ。お疲れでございましょう」 「問題ない。リリアはどこだ?」 「はい。奥さまは今、お部屋にいらっしゃいます」 「ではすぐに会おう」 「いいえ。少々お待ちいただけませんでしょうか?」  急ぎ足でリリアの部屋へ向かおうとするライザスを、アベールが穏やかに制止した。  ライザスは眉をひそめてアベールを睨み据える。 「妻に会えないだと?」
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