11、帰還した夫の勘違い

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「そうではございません。ただ、奥さまはまだ部屋着でいらっしゃいますから」 「なぜだ? もう昼は過ぎているぞ。リリアに何かあったのか? まさか病気か?」 「そのことについては今、お医者さまがいらしてますので少しお待ちを……」 「やはり病気なのか!」  ライザスの脳内は真っ黒な底なし沼にドクロが沈む地獄と化した。  彼はアベールの肩を掴んで退()かし、足早にリリアの部屋へ向かう。  強烈な不安に襲われた。  嫌な予感は的中してしまったのだ。  もしも病気なら国中を旅しても名医を呼び寄せて治療してやろうと思った。  いや、国内にいないなら異国の地まで探しに行こう、とそこまで考えた。 (金はいくらかかってもいい。最高の治療を受けさせてやるから無事でいろ!)  ライザスはリリアが病気になったのだと思い込んでいた。  そのとき、耳を疑うような言葉が聞こえてきたのだった。 「奥さまはご懐妊なの?」 「もうずっと食欲がないと言ってパンも食べられないのよ」 「吐き気もするそうよ」 「やっぱりそうなのかしら」  リリアの部屋の近くで、使用人たちがそれぞれ箒と雑巾を持つ手を止めてそんな話をしていたのだ。  ライザスは衝撃を受けた。 (妻が、懐妊だと……?)
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