11、帰還した夫の勘違い

6/7
前へ
/192ページ
次へ
「どれだけ金を積んでもいい。ささいな変化を見逃すなよ。妻は俺にとって命より大事な存在だ」 「は、はぁ……しかし」 「何だ?」  医者は冷や汗をかきながら、おずおずと答えた。 「奥さまは胃炎なので、命にかかわるようなことはないかと」  しーんと不気味なほどの静寂が訪れる。  ライザスは放心状態になり、医者は気まずそうな顔で目をそらす。  彼らの背後でマリーがぶふっと吹き出した。  リリアはにっこり微笑んで、冷静に彼に説明する。 「お腹がキリキリするように痛くて食欲がわかなかったのです。今朝は少し熱があったのですが、お薬でよくなりました」  呆気にとられていたライザスはリリアの言葉で正気に戻った。 「そ、そうか……大丈夫なのか?」 「はい。せっかくお帰りになったのに、こんな姿で申し訳ございません」 「いいんだ。あなたが元気ならそれで……いや、元気ではないのか」  勘違いを恥じて狼狽えるライザスを見たリリアが、そっと彼の手を握って微笑んだ。
/192ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1029人が本棚に入れています
本棚に追加