12、侯爵家の一族

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 広い応接間の長テーブルにはすでに訪れた客人たちが集まっていた。  テーブルにはチョコレート菓子やシフォンケーキ、マカロンやプディング、サンドイッチにスコーンが並ぶ。  使用人たちが客人に茶を淹れている。  ライザスとリリアが姿を現わすと、みなざわついた。  ローズは一番端の席で、相変わらず大きな扇を持ち、誰とも目を合わせず静かに座っている。  他の者たちはめずらしいものでも見るかのようにリリアに注目した。 「あれが噂の奥さまなの?」 「まさかライザスさまがご結婚されるとはな」 「彼女は【贄嫁】だよ」 「それならなぜわざわざ披露するんだ?」  ひそひそ話す客人たちを見て、リリアは少し緊張した。 【贄嫁】というだけでよい印象でないことはわかっている。  ライザスは当主の席に着き、となりにリリアを座らせた。  そして全員が注目する中、彼は形式的な挨拶をして、客人たちは談笑を始めた。  緊張するリリアに、ライザスが声をかける。 「大丈夫だ。みな性格は悪いがあなたを侮辱する者がいたら俺が叩き伏せるから心配するな」  真顔でさらりとそんなことを言うライザスに、リリアは苦笑する。 (いろいろ突っ込みたいけれど、もういいわ)  リリアは黙って茶を飲んだ。  柑橘類のさわやかな味がして頬が緩む。  いつもの紅茶とは違う少し変わった味だった。
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